
秋植えのジャガイモは、春作にくらべて情報が少ない作型です。そのぶんインターネット上の断片的な情報が独り歩きしやすく、当店の店頭でも毎年おなじご質問と、おなじ行き違いが繰り返されます。なかでも多いのが「秋の種芋は切ってはいけないと書いてあった」「だから小さいイモだけ売ってほしい」というお声です。
結論から申し上げます。秋植えでも種芋は切って構いません。切ったものが腐るのは「切ったから」ではなく、「切り口を乾かさないまま、高温多湿の土に押し込んだから」です。原因を取り違えたまま「丸ごとしか植えない」という運用に縛られてしまうと、種芋の選び方も買い方も、かえって窮屈で不経済なものになります。
この記事では、2026年の秋作を前に、種芋にまつわるよくある誤解をまず5つ整理し、そのうえで「切り方」「切り口の乾かし方」「芽出し」を具体的にご説明します。あわせて、お問い合わせの多い「種芋の見た目」についても、どこまでが正常でどこからが本当に注意すべき状態なのかを線引きしてお伝えします。温暖地(香川県およびその周辺)を想定した内容です。
2026年の秋ジャガ ― まず全体のスケジュールを押さえる
秋作のジャガイモがむずかしいと言われる最大の理由は、作業できる期間の幅がとても狭いことにあります。春作であれば、多少植え付けが前後しても生育期間は十分に確保できます。ところが秋作は、前後を「残暑」と「霜」というふたつの壁ではさまれています。
早く植えれば、地温が高すぎて種芋が腐ります。遅く植えれば、イモが太るのに使える日数が足りず、小さなイモしか穫れません。つまり秋作は、「まだ暑いうちに植えなければならないが、暑すぎるうちに植えてはいけない」という、少し矛盾した条件のなかで適期を選ぶ作型なのです。
植え付け適期:温暖地では9月上旬〜中旬が中心。9月いっぱいは十分に射程です。
生育期間:植え付けから収穫までおおむね100日(芽が地上に出てから80日が目安)。
収穫の目安:11月下旬〜12月中旬。茎葉が黄色く枯れてきたころが合図です。
逆算のしかた:平年の初霜日までに、出芽後55日ほどの生育日数を確保できるように植え付け日を決めます。ただし実際の植えどきは、暦よりも暑さの引き方で判断してください。
この日数は、逆算の物差しになります。ただし引き算だけで植え付け日を決めるのはおすすめしません。近年の気候では、暦よりも「暑さがいつ引くか」のほうが効いてくるからです。
近年の9月は、以前とはまるで違う暑さになっています。9月に入っても真夏日が続き、地温は下がりません。そこへ急いで植えれば、芽が出るより先に種芋が腐ります。早植えの失敗は、この「腐敗」という形で現れます。
ここで押さえておきたいのは、早植えの失敗と遅植えの失敗は、重さが違うということです。早く植えて腐らせてしまえば、その株からの収穫はゼロです。植え直そうにも時期がありません。いっぽう、遅く植えてイモの肥大が間に合わなかった場合は、小ぶりにはなっても収穫はあります。同じ「失敗」でも、失うものの大きさがまるで違うのです。
ですから、迷ったときは遅らせるほうを選んでください。残暑が長引いている年に、暦だけを見て8月中に急ぐ必要はありません。日中の暑さがやわらぎ、朝晩に涼しさが出てきたころが、実際の植えどきです。
目安としては9月上旬から中旬。温暖地向けの資料には9月中旬を目安としているものもあれば、9月下旬までを適期に含めているものもあります。9月いっぱいは十分に射程内だとお考えください。「8月中に植えないと手遅れ」ということは、まったくありません。
それより遅くなる場合は、イモが太るのに使える日数がそのぶん短くなります。穫れないわけではありませんが、小ぶりになりやすいという点だけ、頭に置いて判断してください。
もうひとつ、秋作特有の事情として種芋の流通期間が短いことも押さえておいてください。秋用の種芋は春作にくらべて生産量そのものが少なく、店頭に並ぶのは8月に入ってからのごく短い期間です。「9月に入ってから探しに行こう」と考えていると、すでに売り切れているということが毎年起こります。植え付け適期の直前ではなく、8月のうちに手当てを済ませておくのが安全です。
そもそも、秋作は春作とは別の作物だと考える
秋植えのジャガイモを「春と同じものを、時期をずらして作るだけ」と捉えていると、細かいところでつまずきます。春作と秋作は、同じ作物でありながら、設計思想がかなり違います。ここを最初に共有しておくと、このあとの「切る/切らない」の話も腑に落ちやすくなります。
いちばん大きな違いは気温の動く向きです。春作は、寒いところから始まって、だんだん暖かくなり、暑くなる前に収穫します。生育の前半は低温との戦いで、後半は高温との競争です。ところが秋作は逆で、暑いところから始まって、だんだん涼しくなり、寒くなる前に収穫します。前半のリスクは高温、後半のリスクは低温です。この向きの違いが、植え付けの深さから、かん水の考え方、マルチの使い方まで、ほとんどすべての判断に影響します。
ふたつめの違いは休眠です。ジャガイモは収穫後しばらく、条件が整っても芽を出さない期間を持っています。この性質があるおかげで、収穫したイモが貯蔵中に発芽してしまうことを防げるわけですが、秋作にとっては厄介な足かせになります。春に穫れたイモは、秋の植え付け時期にはまだ休眠から覚めていないことがあるのです。だからこそ、秋作には休眠の浅い系統が選ばれ、それが「秋作向け」として流通しています。
みっつめは使える時間の長さです。春作は3月に植えて6月に穫るとして、およそ100日前後。秋作もほぼ同じ日数ですが、後ろに「寒さ」という締め切りがある点が決定的に違います。春作なら数日の遅れは取り返せますが、秋作の遅れは、そのまま収量の目減りになって返ってきます。
では、そこまで気を遣って秋にも作る意味はどこにあるのか。ひとつは、貯蔵性の高いイモが穫れることです。収穫してそのまま寒い季節に入るため、イモは休眠に入ったまま長く保ちます。年末年始から春先まで、芽の出にくい状態で置いておけます。もうひとつは、同じ畑をもう一度使えること。夏野菜を終えた畝を遊ばせずに済みます。そして、収穫期の気候が穏やかであること。梅雨のさなかに掘り上げる春作にくらべ、11月の畑は乾いていて作業もしやすく、イモを傷めにくいという利点があります。
秋の種芋で、いちばん多い5つの誤解
本題に入る前に、当店に実際に寄せられるご質問・ご指摘のうち、とくに件数の多いものを5つ整理しておきます。ここで全体像をつかんでいただくと、このあとの各章がぐっと読みやすくなるはずです。
5つのうち、1番目から3番目までは「切る/切らない」と「種芋の大きさ」という、ひとつながりの話です。ここが正しく伝われば、秋作の準備でつまずく場面はかなり減ります。次章から順に、根拠を添えてご説明していきます。
「秋は切らずに丸ごと」はどこから来たのか
まず、この通説がまったくの出まかせかというと、そうではありません。背景にある事実そのものは正しいのです。問題は、その事実から導かれた結論のほうです。
秋の植え付け時期は、温暖地ではまだ日中30℃を超える日が続きます。地温はさらに高く、マルチを張っていれば畝の中は40℃近くまで上がることもあります。そこへ、切ったばかりで水分がにじんでいる断面を土に埋めればどうなるか。切り口は細菌にとって格好の侵入口ですから、高温と土壌水分が加われば、発根するより先に腐敗が進みます。実際、秋作で「植えたのに芽が出ない、掘ったら溶けていた」という失敗は珍しくありません。
この失敗が繰り返された結果、「秋は切らないほうが安全」という経験則が生まれました。たしかに、切らなければ切り口はありませんから、この失敗は起こりません。予防策としては正しいのです。ただし、それは原因への対処ではなく、原因を避けて通っているだけです。
本当の原因は「切ったこと」ではなく、「切り口が生乾きのまま土に入ったこと」にあります。であれば、対処法は「切らない」ではなく「乾かしてから植える」でよいはずです。ジャガイモの断面は、切ってから数日おくと表面がコルク状に硬化します(この現象を専門的にはコルク化・キュアリングと呼びます)。この膜ができてしまえば、断面はもう傷口ではありません。
腐敗のリスクを決めているのは、断面の有無ではなく断面の状態です。乾いてコルク化した断面は、皮とほぼ同じ役割を果たします。逆に言えば、丸ごとの種芋であっても、ぶつけて傷んだ部分があれば同じように腐ります。「丸ごとだから絶対安全」でもないのです。
もうひとつ申し上げておきたいのは、「切らない」を絶対のルールにしてしまうと、種芋の買い方そのものが不自由になるということです。次章で詳しくご説明しますが、種芋は重量で売られる商品ですから、「丸ごと植えられるサイズだけを揃える」という買い方は、そもそも商品の成り立ちと噛み合いません。
大きい種芋は損なのか ― 種芋の大きさと、穫れるイモの大きさは別の話
「大きい種芋が入っていた」というお声の裏には、たいていふたつの前提が隠れています。ひとつは「大きい種芋は切らないといけないから面倒だ」、もうひとつは「大きい種芋のほうが得なはずだ(あるいは損なはずだ)」という感覚です。順番にほどいていきます。
まず、種芋の大きさは、収穫するイモの大きさを決めません。ジャガイモは種子から育てるのではなく、イモという栄養器官をそのまま植える作物です。そこから伸びた茎も、新しくつくイモも、遺伝的には元の種芋と同じものです。つまり、大きい種芋を植えたからといって、生まれてくるイモの「素質」が変わるわけではないのです。収穫物の大きさを左右するのは、栽培期間の長さ、株あたりの茎数、日照、水分、肥料といった、植えたあとの条件のほうです。
では、種芋の大きさはまったく無関係かというと、そうでもありません。種芋(あるいは切り分けた種芋片)が持っている貯蔵養分の量は、芽が地上に出て自分で光合成を始めるまでの「持ち出し資金」にあたります。この資金が多いほど、初期の立ち上がりは安定します。とくに秋作は、植え付け直後に高温という負荷がかかりますから、あまりに小さく切り分けた種芋片は、初期生育で息切れしやすいと考えられます。これが、種芋片の重さに目安が設けられている理由です。
そして、コストの話です。種芋は重量で販売されます。ここが重要なところで、大きいイモを切らずにそのまま1株分として使うと、同じ重量からとれる株数が減ります。たとえば150gのイモをひとつ丸ごと植えれば、150gで1株です。同じ150gを3つに切り分ければ、50gずつで3株になります。「切らずに植える」は手間がかからず楽ですが、重量売りの商品を株数に換算したときの効率は、はっきり落ちるのです。
そして、金額の話です。ここは正確に申し上げておきます。1片の重さを40〜50gにそろえるかぎり、同じ重量の種芋から立てられる株数は、丸ごと植えでも切り分けでも変わりません。1kgなら20〜25株です。「小さいイモだけ集めれば得をする」ということも、「大きいイモだと損をする」ということも、原理的にはありません。
この40〜50gという数字は、思いつきの目安ではありません。各県の栽培指針が示す10a当たりの種芋所要量(おおむね200〜270kg)を、同じ資料の栽植株数で割り戻すと、いずれも1株あたり40〜50gに収まります。プロの栽培でも家庭菜園でも、1株に持たせる養分の量はほぼ共通なのです。
変わってくるのは、「大きいイモを切らずに丸ごと1株分として使う」場合です。150gのイモを丸ごと植えれば、1株に規格の3倍の養分を持たせることになり、1kgから6〜7株しか立ちません。同じ1kgを規格どおりに切り分ければ20株です。株数という一点だけを見れば、効率は落ちます。ただしこれは単純な無駄ではなく、あとで述べるトレードオフの一方の端です。
そのうえで、大きいイモを切って使うことには、小さいイモを丸ごと植える場合にはない3つの利点があります。
もちろん、40〜50gに満たない小さいイモを、わざわざ切る必要はありません。そのまま丸ごと植えるのが正解で、切り口をつくらないぶん腐敗のリスクも下がります。大きいイモは切る、小さいイモは丸ごと ― どちらも同じ40〜50gにそろえて畝に置く、というのが標準的な形です。
40〜50gは絶対の正解ではない ― 株数と確実性のトレードオフ
ここまで「切って規格にそろえる」ことの利点を並べてきましたが、公平を期すために、逆の見方もお伝えしておきます。1片をどれくらいの大きさにするかは、トレードオフの問題です。どちらか一方が正しいという話ではありません。
1片を大きくすれば、同じ重量から立てられる株数は減ります。そのかわり、1株が持って生まれる養分は増えます。種芋は大きいほど出芽が早く、生育も旺盛になるとされています。植えてから地上に出るまでの心細い期間を、それだけ確実に乗り切れるということです。
この点は、秋作ではとくに重みを持ちます。各県やメーカーの秋作向けの資料を見ると、1片を50g以上とするもの、さらには「切断したイモは植え付け後に腐敗しやすいので丸いもを用いる」として、そもそも切らないことを勧めるものもあります。真夏の畑に切り口を持ち込みたくない、という考え方です。
ですから、大きいイモを切らずに丸ごと植えるのは、間違いではありません。株数という効率を手放すかわりに、切り口をつくらない安心と、初期生育の確実さを買っている ― そういう選択です。同じように、「1片を60〜80gくらいの大きめに割る」という中間の選び方もあります。
どちらに寄せるかは、畑の条件と目的で決めてください。
| こんな場合は | 1片の大きさ | 考え方 |
|---|---|---|
| 面積があり、株数を確保したい | 40〜50g(標準) | 株数と確実性のバランスが取れた基準値。迷ったらここ |
| 株数が少なく、1株も欠かしたくない | 大きめに割る(60〜80g程度) | 株数より確実性を優先。家庭菜園で欠株の痛手が大きい場合 |
| 残暑が厳しい/水はけが不安な畑 | 丸ごと、または大きめ | 切り口そのものを減らして腐敗のリスクを下げる |
くり返しになりますが、40〜50gという数字は「標準値」であって、絶対の正解ではありません。大きいイモを買って、大きいまま植える ― それも立派に成立する使い方です。いずれにせよ、大きい種芋を避ける理由はどこにもない、というのがこの章の結論です。
種芋の大小は品質の差ではなく、使い方が変わるだけです。小さいイモは丸ごと植える。大きいイモは規格に合わせて切り分ける。どちらも同じ重量から、ほぼ同じだけの株を立てられます。大きいイモを避ける理由はどこにもありません。
この見た目は不良ではありません ― 種芋の外観の見方
種芋は野菜ではなく、これから畑で働いてもらう資材です。食用のイモを選ぶときの基準をそのまま当てはめると、問題のない種芋を「悪いもの」と判断してしまうことになります。当店にお問い合わせの多い外観について、正常なものと、本当に注意していただきたいものを並べておきます。
※ベージュ=正常な範囲 / 淡赤=扱いに注意
まとめると、見た目でご心配になる要素のほとんどは、種芋としての性能に影響しません。硬さと匂い ― この2点だけを確認していただければ、実用上は十分です。手に取ってずっしり硬ければ、多少ざらついていても、緑がかっていても、しっかり働いてくれます。
切り方の実際 ― 芽の位置を見てから包丁を入れる
ここからが本題です。切ること自体に問題はありませんが、切り方には理屈があります。適当に半分に割ればよいというものではなく、芽の付き方を見てから包丁を入れる必要があります。
芽はイモの一方の端に集まっている
ジャガイモを手に取ると、片方の端にくぼんだ跡があります。これは親株のストロン(地下茎)とつながっていた側で、へその緒の跡のようなものです。芽(イモの表面にある「目」)は、この跡から遠いほうの端に多く集まっています。この端を頂部と呼びます。
さらに、この頂部にある芽ほど勢いが強いという性質があります。植物学的には頂芽優勢と呼ばれる現象です。ここが切り分けの重要な前提になります。もし横方向にすぱっと輪切りにしてしまうと、勢いの強い芽が片方に全部集まり、もう片方は弱い芽しか持たない不利な種芋片になってしまうのです。
縦に割って、芽を等しく配る
したがって切り方の原則は、「頂部とへそ側を結ぶ線に沿って、縦に割る」です。こうすれば、どの断片にも頂部側の強い芽が分配されます。イモが大きければ、縦に2等分してから、さらにそれぞれを縦に割って4片にします。
3片に分けたい場合は、輪切りにするのではなく、頂部を中心に放射状に3つへ割ります。ケーキを切り分けるときのように、頂部の一点から下へ包丁を入れていくイメージです。こうすれば、3片それぞれに頂部側の芽が行き渡ります。
大きさの目安は、1片あたり40〜50g程度、鶏卵よりひとまわり小さいくらいをイメージしてください。これより小さく刻むと貯蔵養分が足りず、とくに秋作では初期生育でつまずきます。逆に、それ以上大きくても悪いことはありませんが、株数の効率は落ちます。各片に芽が2個以上(できれば3個)残っているかを確認しながら分けてください。
包丁は、できれば作業の合間に消毒しながら使ってください。もし内部が変色したイモに当たった場合、その包丁でそのまま次のイモを切ると、病気を健全なイモに移してしまう可能性があります。熱湯にくぐらせる、消毒用アルコールで拭くといった簡単な方法で構いません。
切るときは、包丁を押し当てて一気に引くようにしてください。のこぎりのように何度も往復させると、断面がささくれて乾きにくくなります。断面はできるだけ平らで滑らかなほうが、コルク化が早く進みます。また、切ったそばから断面どうしを重ねて置かないでください。まだ湿っている面がくっつくと、そこだけ乾きが遅れます。
切り分けたあと、芽がほとんど見当たらない片が出てしまった場合があります。秋用の種芋は芽が動いていないことが多く、目そのものが浅くて見えにくいためです。イモの表面をよく見ると、細いくぼみや筋のような跡が点在しているはずで、それが目です。まったく目のない片は発芽しませんので、心配であれば明るい場所で斜めから光を当てて表面を見てください。浅い目も影になって分かります。位置を確かめてから包丁を入れれば失敗しません。
なお、40〜50gに満たない小さいイモは、無理に切らず丸ごと植えてください。切ることが目的ではありません。小さいイモを丸ごと、大きいイモを切り分けて、どちらも同じ40〜50g前後の状態にそろえて畝に置く ― これが理想の姿です。1枚の畝の中で株の大きさがそろい、その後の管理も収穫もやりやすくなります。
切り口の乾かし方 ― 風通しのよい日陰で2〜3日
この記事でいちばんお伝えしたいのが、この章です。ここさえ守っていただければ、秋作で切った種芋が腐るという失敗は、ほとんど起こりません。
手順そのものは単純です。切ったら、風通しのよい日陰に、切り口を上に向けて並べ、2〜3日おく。それだけです。新聞紙やコンテナの上に、断面どうしが重ならないように広げてください。3日目には、断面が乾いて色が変わり、指で触ってもべたつかない状態になります。これがコルク化した合図です。
気をつけていただきたいのは場所の条件です。「乾かす」と聞くと日なたに出したくなりますが、直射日光は避けてください。真夏の直射に当てると、断面が乾くというより焼けてしまい、内部まで傷みます。かといって、密閉した袋や段ボールの中に入れておくと、蒸れて逆に腐ります。日は当たらないが風は通る、軒下や納屋の土間のような場所が理想です。
雨に当てないことも大切です。せっかく乾き始めた断面が濡れると、そこから傷みます。屋外に置く場合は、急な夕立に備えて屋根のある場所を選んでください。
草木灰についても触れておきます。切り口に草木灰をまぶす方法は昔から広く行われており、断面の水分を吸って乾きを助ける効果は期待できます。カリ分の補給にもなります。ただし、灰はアルカリ性ですから、多用すると土壌が中性側に傾き、ジャガイモがかかりやすいそうか病が出やすくなる、という指摘もあります。草木灰は必須ではありません。使う場合は薄くまぶす程度にとどめ、いずれにせよ「日陰で2〜3日乾かす」工程は省かないでください。灰は乾燥の代わりにはなりません。
量が多い場合は、重ねずに広げられるだけの場所を先に確保してから切りはじめてください。コンテナに積み上げてしまうと、下のほうの断面に風が当たらず、そこだけ乾かないまま植えることになります。網目のあるコンテナを何段か重ねる、すのこの上に一段で並べるなど、空気の通る置き方を工夫してください。半日ほどしたら一度上下を返してやると、乾きがそろいます。
気温が高い日が続くときは、乾くのが早いぶん、乾かしすぎにも注意してください。断面が乾くのを通り越して、イモ全体がしなびて軽くなってしまうと、こんどは貯蔵養分が目減りします。判断は日数ではなく状態で行ってください。断面の色が変わり、触ってもべたつかず、それでいてイモを持ったときにずっしりと重い ― この状態が理想です。
この工程が入るということは、植え付け日から逆算して切る日を決める必要があるということです。当日に切って当日に植える、という段取りはできません。以下を目安にしてください。
| タイミング | 作業 | ポイント |
|---|---|---|
| 植え付けの2週間前 | 種芋を用意し、畑を準備する | 石灰は控えめに。元肥は種芋に直接触れない位置へ |
| 植え付けの7〜10日前 | 大きい種芋を縦に切り分ける | 1片40〜50g・芽2個以上。包丁はこまめに消毒 |
| 切ってから2〜3日 | 風通しのよい日陰で断面を乾かす | 直射日光・密閉・雨は避ける。切り口を上に向けて広げる |
| 断面が乾いてから数日 | 同じ場所に置いたまま芽出しをする | 太く短い芽を5mm前後まで動かす。冷蔵庫には入れない |
| 植え付け当日 | 断面の乾きと芽を確認してから植える | 触ってべたつかず、短い芽が動いていればよい |
天候の都合で乾燥が進まない場合は、無理に予定日に植えず、1〜2日ずらしてでも乾かしきってから植えるほうが結果は良くなります。ただし、9月中旬という後ろの締め切りは動かせませんので、そもそも早めに段取りを組んでおくことが肝心です。
芽出し ― 乾かすのと同じ場所で、そのまま芽を動かす
切り口を乾かすことと並んで、秋作でぜひ組み込んでいただきたいのが「芽出し」です。植え付け前に、種芋の芽をあらかじめ動かしておく作業のことをいいます。
なぜこれが秋作で効くのか。植え付けから地上に芽が出るまでには2〜3週間かかります。その間ずっと、種芋は高温多湿の土の中に置かれ、腐敗のリスクにさらされ続けます。芽をあらかじめ動かしておけば、この「土の中で無防備なままの期間」を短くできます。腐る前に地上に出てしまえば、あとは自分で光合成を始めます。近県の栽培指針でも、残暑の厳しい年は、あらかじめ出芽させてから畑に植えると発芽不良になりにくいと紹介されています。
やり方はむずかしくありません。切り口を乾かした場所に、そのまま数日置いておくだけです。日は当たらないが明るく、涼しく風の通る場所 ― 切り口の乾燥に適した条件は、そのまま芽出しに適した条件でもあります。工程を分けて別の場所を用意する必要はなく、「切る → 乾く → 芽が動く → 植える」と一本の流れでつながります。
目指す芽の状態は、太くて短い芽です。長さの目安は5mm前後、色は緑がかっていれば理想的です。長ければよいというものではありません。白く細長い芽は、暗い場所に置かれて徒長したもので、折れやすく、植えてからの立ち上がりも頼りなくなります。適度な明るさを保つことが、締まった芽をつくるコツです。
すでに白く徒長した芽が出てしまっている種芋は、その芽を一度かき取ってしまってください。そのうえで明るい涼しい場所に置き直すと、あらためて短く締まった芽が動いてきます。植え付けは数日遅れますが、頼りない芽のまま植えるよりも結果はよくなります。ただし芽かきを何度も繰り返すのは避けてください。種芋の養分を消耗し、かえって生育に響きます。2〜3回までが目安です。
温度にも気を配ってください。芽出しに適するのはおおむね20℃前後で、25℃を超えるような場所では芽が傷みやすくなります。8月下旬の日中は、屋内でもかなりの温度になりますので、置き場所は「いちばん涼しいところ」を探してください。
株数が少ないなら、箱やポットで育ててから畑に植えるのも有効
家庭菜園のように植える株数が限られている場合は、もう一歩進めた方法があります。種芋を箱やポットで芽出しし、芽が動いたものだけを畑に植えるやり方です。近県の栽培指針でも、残暑の厳しい年に発芽不良を避ける方法として紹介されています。
手順は次のとおりです。切り口を乾かした種芋を、プランターや発泡スチロールの箱に用意します。底に砂を薄く敷き、種芋を並べて5cmほど覆土。軒下など涼しい場所に置き、腐敗を防ぐため水は控えめにします。芽が伸びて茎が3cmくらいになるまでに畑へ移します。ポットに培養土を入れ、1ポットに1片ずつ、というやり方でも考え方は同じです。
この方法の最大の利点は、いちばん過酷な時期を、畑の外でやりすごせることです。そもそも育苗とは、環境を選べない畑でいちばん弱い時期を過ごさせるかわりに、手の届く場所で守って立ち上げるための手段です。秋冬野菜をセルトレイで育ててから植えるのと、考え方はまったく同じです。
8月下旬から9月上旬の畑は、種芋にとってもっとも危険な場所です。地温は上がり、夕立が来れば水がたまり、こちらから手を出せることはほとんどありません。ところが箱やポットなら、置き場所を選べますし、暑ければ日陰に移せますし、水も自分で加減できます。同じ種芋でも、置かれる環境がまるで違うわけです。
そして結果として、欠株も減ります。畑に直接植えた場合、出てこなかった株の跡には何も残りません。植え直そうにも、9月下旬を過ぎれば生育期間が足りず、その1株分は丸ごと失われます。箱やポットで先に動かしておけば、確実に芽が出たものだけを畝に並べられます。株数が少ないほど欠株1株の痛手は大きくなりますから、家庭菜園ほど効いてくる方法です。
注意点は2つ。ひとつは移すのを遅らせないこと。根が回ってから動かすと傷めますので、茎が3cmくらいまでを目安に、早めに畑へ出してください。もうひとつは水をやりすぎないこと。ここでも腐敗が最大の敵です。なお、育てた苗を残暑のなかで畑に植えて活着させる際の考え方は、当店ブログの秋冬野菜の定植の記事でも詳しくご説明しています。
「芽を出させるために、一度冷やして休眠を破る」という話を耳にすることがありますが、これは逆です。低温は休眠を破るのではなく、芽の伸びを抑えるための手段です。県の試験研究でも、4℃前後で貯蔵した種芋は休眠明けがかえって遅れ、常温より出芽が遅くなったことが報告されています。休眠明けが最も進むのは22〜24℃程度の一定温度で、高すぎる30℃も低すぎる4℃も休眠を長引かせます。
秋作用の種芋は、ちょうど休眠が明けるころに合わせて出回ります。とはいえ休眠の進み方には幅がありますので、手元に届いた時点でまだ休眠が明けきっていないものもあります。しばらく置いてもなかなか芽が動かないようであれば、22〜24℃くらいを保てる場所に移して、数週間ようすを見てください。冷蔵庫に入れるのは、この場面では逆効果になります。
畑の準備 ― 跡地・土の酸度・土の状態
種芋の準備と並行して、畑の側も整えておく必要があります。秋作の失敗は、種芋の扱いよりも先に、畝の立て方や跡地の選び方で決まっていることが少なくありません。
跡地の選び方 ― ナス科のあとは避ける
ジャガイモはナス科の作物で、トマト・ナス・ピーマン・トウガラシと同じ仲間です。これらの跡地に続けて植えると、土壌に残った青枯病や疫病の病原菌を引き継ぐおそれがあります。ナス科の夏野菜を作っていた畝は、できれば避けてください。秋作の場合、直前まで夏のナスやピーマンが立っていた場所をそのまま使いたくなる場面が多いのですが、ここは一度立ち止まって畑を見渡していただきたいところです。
やむを得ずナス科の跡地を使う場合は、株や根をていねいに片付け、残渣を畑に鋤き込まずに外へ出してください。前作の株が病気で終わっていた畝は、秋作には使わないのが賢明です。逆に、トウモロコシ・マメ科・ウリ科などの跡地は、比較的あとくされなく使えます。
土の酸度 ― 石灰を足さない
ここは、秋作にかぎらずジャガイモを作るうえでいちばん誤解の多いところかもしれません。多くの野菜は弱酸性の土を好み、酸性に傾いた畑には石灰を入れて調整します。ところがジャガイモは、その多くの野菜よりもさらに酸性寄りの土を好みます。
そのため、「野菜を植える前にはとりあえず石灰」という習慣を、ジャガイモにそのまま当てはめると逆効果になります。土がアルカリ側に傾くと、そうか病が出やすくなるためです。そうか病は、イモの表面にざらついた瘡蓋(かさぶた)状の斑点をつくる病気です。食味そのものには影響しませんが、見た目は明らかに悪くなり、皮をむく手間も増えます。
やっかいなのは、この病原菌が土に残ることです。一度発生した畑では、翌年以降も同じ症状が出やすくなります。「今年だけの失敗」で済まないという点で、石灰の入れすぎは尾を引きます。
ですから、前作で石灰を入れている畑なら、秋作の前に重ねて施用する必要はまずありません。ジャガイモに関しては「入れないほうが無難」くらいに構えておいてください。石灰だけでなく、草木灰や鶏ふんなどアルカリ性に傾く資材も、多用は避けたほうが安全です。前章で「切り口の草木灰は必須ではない」と申し上げたのも、ひとつにはこの理由からです。
もし畑の酸度が気になる場合は、市販の簡易な測定器で確かめてから判断してください。数字を見ずに石灰を足す ― これがいちばん避けたい進め方です。
土の状態 ― 排水と、耕すタイミング
堆肥については、未熟なものを入れないことが第一です。高温期に未熟な有機物を鋤き込むと、分解の過程でガスが出たり、地温がさらに上がったりして、種芋にとって好ましくない環境になります。堆肥を入れるなら十分に完熟したものを、できれば植え付けの2週間以上前に施しておいてください。
そして排水です。ここが秋作でいちばん軽視されがちなポイントかもしれません。8月下旬から9月にかけては、秋雨前線と台風が重なる時期です。まとまった雨のあと、畝の中に水が半日以上とどまるような畑では、切った種芋どころか丸ごとの種芋でも腐ります。畝は春作より高めに立て、畝間に水の逃げ道をつくっておいてください。粘土質で水のひきにくい畑であれば、周囲に明渠を切っておくだけでも結果が変わります。
植え付けの直前に畑を耕すのも避けたいところです。耕したばかりの土はふかふかで水を含みやすく、雨が来ると畝の中が滞水します。できれば1週間ほど前に畝を立てて、土を落ち着かせてから植えてください。この「落ち着かせる期間」が、ちょうど種芋を切って乾かす期間と重なりますので、段取りとしても収まりがよいはずです。
最後に、細かいようですが石や大きな土のかたまりを取り除いておくと仕上がりが違います。イモは土の中で押しのけながら太っていきますので、硬いものに当たると変形します。表面が凸凹したイモや、いびつに曲がったイモの多くは、品種や肥料ではなく土の物理的な状態が原因です。
植え付け ― 浅めに植えて、水はひかえめに
秋作の植え付けは、春作と手順は同じでも、力の入れどころが逆になる場面がいくつかあります。春は「地温を上げて早く動かす」ことを考えますが、秋は「地温が高すぎるのをやりすごす」ことを考えます。
| 項目 | 秋作の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 植え付けの深さ | 春よりやや浅め(5〜7cm程度) | 覆土が厚いほど、出芽までに過湿と酸欠にさらされる時間が長くなる |
| 株間 | 25〜30cm程度 | 秋作は生育期間が短く、株が春ほど大きくならない |
| 切り口の向き | 切り口を下に、芽のある側を上に | 断面を土に密着させて発根を促し、芽を浅い側へ向けるため |
| 元肥 | 種芋に直接触れさせない | 肥料焼けと、断面からの傷みを避ける |
| 植え付け後のかん水 | 土が湿っていれば不要。乾いていれば控えめに | 高温+過湿が腐敗の最大の条件。たっぷり与えるのは避ける |
| 排水 | 畝を高めに立てる | 秋雨・台風による滞水を逃がす |
かん水 ― 「植えたら水やり」をしない
とくに気をつけていただきたいのがかん水です。「植えたらたっぷり水をやる」というのは多くの作物で正しい手順ですが、秋作のジャガイモでは、これが失敗の引き金になります。植え付け直後の種芋はまだ根を出しておらず、水を吸う器官がありません。そこへ水分だけを与えても、高温のなかで種芋を蒸らすことになります。
判断の基準は土の状態です。土が適度に湿っているなら、植え付け後のかん水は必要ありません。逆に、からからに乾ききっていて発芽そのものが心配な場合は、植え付ける前日までに畝全体へ水を入れておくか、植え付け後に畝の表面が湿る程度をごく軽く与えます。いずれにせよ「たっぷり」は禁物です。迷ったら、やらないほうを選んでください。乾きすぎて出芽が数日遅れる被害より、蒸れて腐る被害のほうが取り返しがつきません。
石灰は前章のとおり控えめに。地温については、浅植えと畝の高さは別々に考えてください。覆土を薄くするのは出芽までの過湿対策であり、地温を下げる手立てにはなりません。地温が心配な場合は、植え付け直後にマルチを張らない、あるいは刈り草などで畝面を覆って直射を和らげる、といった対応のほうが効きます。
そして、台風の多い時期に植えるということを常に意識しておいてください。秋作の腐敗は、暑さそのものよりも「雨のあと水がひかないこと」で決まる場面が多いのが実感です。植え付けの前に、まとまった雨が降ったとき畝のどこに水がたまるかを一度見ておくと、翌年以降の畝取りにも生きてきます。
植え付けたあとの管理 ― 芽かき・土寄せ・追肥
植え付けから発芽までは、秋作では2〜3週間かかることもあります。待たされる感覚がありますが、地温が下がるのを待って動き出すためで、異常ではありません。芽が出ないからといって掘り返すのはお控えください。掘り返す動作そのもので、動き始めた根を切ってしまいます。
芽かき ― 勢いのよいものを1〜2本に
秋作の芽かきは、勢いのよいものを1〜2本残し、あとは取り除くのが基本です。生育期間が短いぶん、限られた日数のあいだに養分をイモへ集中させたいためで、茎数を欲張ると小さいイモばかりになります。ただし秋作はそもそも芽数が少なめに出ることが多く、出た芽が2本以内であれば作業そのものが不要です。3本以上出た場合に、勢いの弱いものから抜いて1〜2本に整理します。
抜くときは、必ず片手で株元の土を押さえながら引いてください。押さえずに引くと、種芋ごと持ち上がってしまい、残したい芽の根まで傷めます。土が乾いていて抜きにくいときは、無理に引かず、地際ではさみで切っても構いません。
土寄せ ― 畝の肩まで、2回に分けて
土寄せは、秋作では収穫の出来を左右する作業です。軽く見られがちですが、ここを手抜きすると、せっかく太ったイモが売り物にも食べ物にもならなくなります。
理由は、ジャガイモが種芋より上にできるという性質にあります。新しいイモは、種芋から上に伸びた茎の地下部分につきます。つまり、覆土が足りなければイモは地表近くに顔を出し、日に当たって緑化します。緑化した部分にはソラニンなどの有害成分が生じ、食用にできません。せっかく穫れたイモの一部を捨てることになります。
土寄せの目的は、この緑化を防ぐことが第一。あわせて、株を倒れにくくすること、そして畝を高く保って排水をよくすることにもつながります。秋の長雨や台風を考えれば、この3つ目も軽くありません。
回数は2回を目安にしてください。1回目は芽が10〜15cmほどに伸びたころで、芽かきと追肥を同時に済ませると効率的です。2回目はその2〜3週間後、株がひとまわり大きくなったころに行います。秋作は生育期間が短いため、土寄せのチャンスは実質この2回しかありません。タイミングを逃すと、次の機会は来ないとお考えください。
寄せ方にもコツがあります。株元だけを盛り上げても不十分です。株元に土を盛っただけでは、畝の肩の部分から横向きに光が入り、そこにできたイモが緑化します。畝の肩まで含めて、畝全体を太らせるように寄せてください。秋作は株が小さいぶん一度に寄せる量は少なくて済みますが、範囲は手を抜かないことです。
作業は土が乾いているときに。雨あがりの湿った土を寄せると、乾いたあとに固く締まってしまい、イモが肥大しにくくなります。また、鍬を深く入れすぎないでください。地中には新しいイモにつながるストロン(地下茎)と根が広がっています。これを切ってしまうと、そのぶん収量が落ちます。表層の土をすくって寄せる、くらいの感覚で十分です。
追肥 ― 窒素を効かせすぎない
追肥は、1回目の土寄せに合わせて1回が基本です。土寄せの前に畝の肩や条間へ肥料を振り、そのうえから土を寄せれば、ひと続きの作業として片づきます。
ここでいちばん大切なのは、窒素を効かせすぎないことです。窒素が効きすぎると株は茎葉ばかりを茂らせ、養分がイモへ回りません。春作なら生育期間に余裕がありますから、多少茂ってもあとから挽回できます。ところが秋作には、その余裕がありません。茎葉を茂らせているあいだに霜が来てしまえば、そこで生育は終わりです。「よく茂っているから期待できる」と思っていたら、掘ってみて小さいイモばかりだった ― 秋作でよくある失敗のひとつです。
秋作の基本方針は、「そこそこの茎葉で、早めにイモへ回す」と覚えてください。もともと生育期間が短い作型ですから、元肥を主体にして、追肥はあくまで補助という考え方が合っています。株の色を見て、葉が濃い緑をしていて勢いがあるなら、追肥を控える判断もあってよいくらいです。
逆に、イモの肥大にはカリが効きます。追肥に使う肥料を選ぶときは、窒素の割合が高すぎないもの、カリがしっかり入っているものを目安にしてください。「ジャガイモは肥料食いだから」と、窒素の多い肥料を多めに ― という発想は、秋作では裏目に出ます。
もうひとつ。遅い時期の追肥は避けてください。10月も半ばを過ぎてから窒素を効かせると、株はもう一度葉を茂らせようとします。そのあいだに気温が下がりきってしまえば、追肥した養分はイモにならないまま終わります。追肥は生育の前半までに済ませるのが、秋作の鉄則です。
秋作で気をつけたい病気と虫
秋作は、真夏の害虫の最盛期をいくらか外して育つぶん、春作より楽に感じられる場面があります。とはいえ油断はできません。秋作には秋作特有の警戒対象があります。
もっとも警戒したいのが疫病です。葉に水がしみたような暗緑色の斑点が出て、やがて茶褐色に枯れ込み、湿度が高いと葉裏に白いかびを生じます。雨が続いて涼しくなった時期に一気に広がるのが特徴で、まさに秋作の生育後半が条件にあてはまります。株が茂りすぎて風が通らない畝、水はけの悪い畝で出やすいので、畝間を広くとって風の通り道を確保すること、土寄せで畝を高く保つことが予防になります。発生した葉は早めに取り除き、畑の外へ出してください。
次にアブラムシです。吸汁による直接の被害よりも、ウイルス病を媒介することのほうが問題になります。ジャガイモのウイルス病は一度入ると治せません。株が萎縮したり、葉が縮れてモザイク状のむらが出たりした場合は、まわりへ広げないよう早めに抜き取る判断も必要です。秋は羽のあるアブラムシが飛び回る時期でもあるので、生育初期の被覆が有効な場面があります。
葉を食べる虫としては、テントウムシに似た斑点の多い甲虫(ナス科の葉を好みます)が代表的です。葉を網目状に食べ残す独特の食痕を残すので見分けやすく、成虫・幼虫とも見つけ次第捕殺すれば被害は抑えられます。放っておくと株全体の葉がすだれ状になり、肥大に必要な光合成量を失います。
株元をねらう虫としては、夜間に活動するイモムシ類がいます。日中は土の中に潜んでいて、朝になって出たばかりの茎が根元から切られていることで気づくことがほとんどです。被害株の周囲、地表から数センチの浅い土を探ると見つかりますので、そのつど取り除いてください。秋作は株数が限られるため、1株失うだけでも痛手になります。
土の中では、コガネムシの幼虫やハリガネムシ(コメツキムシの幼虫)がイモに穴をあけます。収穫してはじめて気づく被害なので、未熟な有機物を入れない、前作の残渣を残さないといった土づくりの積み重ねで減らしていくほかありません。
薬剤を使う場合は、必ず最新のラベル表示でジャガイモへの登録内容と使用時期・回数をご確認ください。登録内容は変更されることがあります。あわせて、お住まいの地域のJAや病害虫防除所が出している防除暦を参照されると確実です。この記事では、その性質上、具体的な薬剤名は記載しておりません。
収穫と貯蔵 ― 茎葉の色を見て、晴れた日に掘る
収穫の合図は、春作と同じで茎葉の色です。葉が黄色くなり、枯れはじめたころが掘りどきになります。各県の指針も農林水産省の栽培技術指針も、収穫適期の基準はそろって「茎葉の黄変・枯死」と書いており、「霜」を収穫の判断基準にしている資料はありません。
霜は「終わり」の合図ではありません
「霜が降りたらもう終わり」と思われている方が多いのですが、これは正確ではありません。県の栽培指針のなかには、はっきりと「秋作では1〜2回霜に当たってから収穫する」と書いているものすらあります。
霜に当たって傷むのは地上の茎葉です。イモは土の中にありますから、茎葉が枯れたからといって、掘れば穫れます。実際、県の試験では同じ日に植えた区で、収穫を12日遅らせただけで上いも重が約2割増えたという結果も出ています。12月に入ってもイモは太り続けている、ということです。
ただし、「茎葉が枯れる程度の霜」と「土まで凍るような強い冷え込み」は別物としてお考えください。地表近くまで氷点下になると、浅いところにあるイモが凍って傷みます。強い冷え込みの予報が出たときは、無理をせず早めに掘り上げてください。土寄せをしっかりしておくことが、ここでも効いてきます。
遅植えで困るのは、霜ではなく「日数」
ここまでを踏まえると、植え付けが遅れたときに困るのは「霜が来ること」ではありません。困るのは、イモが太るのに使える日数が足りなくなることです。
イモの肥大がいちばん進むのは、地温がおおむね15〜18℃のときとされています。11月に入って気温が下がってくると、株は生きていてもイモの太り方はゆっくりになります。そこへ茎葉が枯れる時期が重なれば、それ以上は大きくなりません。「霜で急に終わる」のではなく、「だんだん太らなくなって、そのうち終わる」というのが実際の姿です。
ですから、遅植えの結果は「収穫できない」ではなく「イモが小ぶりになる」という形で現れます。ここが、早植えで種芋を腐らせてしまった場合との決定的な違いです。
初霜の平年値は、あなたの畑の値ではありません
「霜が降りるのはいつごろか」を調べると、気象台が出している平年値が見つかります。参考になる数字ですが、そのまま自分の畑に当てはめるのは考えものです。
理由は、観測点の場所にあります。香川県内で霜を観測しているのは高松の1地点だけで、しかもその露場は港に近い市街地にあります。県内に6か所あるアメダスは、霜を観測していません。つまり県内の「初霜」は、市街地の1点で決まっているわけです。
そして市街地は、まわりの農地より最低気温が高く出やすい場所です。気象庁も、都市化の影響は日最高気温よりも日最低気温に現れやすいとしています。霜が降りるかどうかは最低気温で決まりますから、市街地の観測点では、霜が実際より遅く記録される方向に働きます。
さらに、放射冷却で冷える晩は地表付近の温度が気温より1〜2℃低くなりますし、窪地や谷あいには冷気がたまります。内陸の畑、山あいの畑、川沿いの低いところ ― こうした場所では、平年値より早く霜が降りていても不思議ではありません。
結論としては、平年値は出発点として使い、そこから自分の畑の分を補正するのが現実的です。毎年おおよそいつ霜が降りるか、ご自身の畑で覚えておかれるのがいちばん確かです。
掘る日と、掘ったあとの扱い
掘る日は晴天が2〜3日続いたあとを選んでください。雨あがりの湿った土から掘ったイモは、皮が傷つきやすく、そのまま貯蔵すると腐敗します。掘ったイモは、その場で数時間、風通しのよい日陰に広げて表面を乾かしてから取り込みます。
秋作のイモには、貯蔵という面での利点があります。収穫後そのまま低温期に入るため芽が動きにくく、春作のイモより長持ちしやすいのです。年明けまで芽が動きにくく、家庭で保存するにも扱いやすいイモになります。暗く涼しく、風の通る場所に、新聞紙などをかけて置いてください。日に当てると緑化します。
なお、収穫したイモを翌年の種芋として使い回すことはおすすめしません。見た目には健全でも、ウイルス病は年を追うごとに蓄積し、収量は徐々に落ちていきます。種芋として流通しているものは、その点の検査を経たうえで供給されています。手間と費用をかけて種芋を更新することには、きちんと理由があります。
よくあるご質問
Q. 春に余った種芋を、秋にそのまま使えますか。
おすすめできません。ジャガイモには収穫後しばらく芽が出ない休眠期間があり、その長さは系統によって大きく異なります。秋作向けとして流通しているのは、休眠が浅く、短期間で芽を動かせる系統です。春作用のものを秋に植えても、霜までに間に合うタイミングで芽が出ないことがあります。また、春から夏を越して保管された種芋は、高温にさらされて傷んでいる場合もあります。
Q. 切ってから乾かす日数は、長ければ長いほどよいのですか。
乾燥そのものは2〜3日で十分です。それ以上乾かし続ける意味はなく、種芋全体から水分が抜けてしなびてきます。「断面だけ乾かして、中身は乾かさない」のが狙いです。ただし、断面が乾いたあと芽出しのためにさらに数日置いておくのは別の話で、これはむしろおすすめします。イモを持ってずっしり重いうちは問題ありません。
Q. 40〜50gより小さく切ってはいけませんか。
禁止ではありませんが、秋作ではおすすめしません。植え付け直後に高温という負荷がかかるため、貯蔵養分の少ない小片は立ち上がりで不利になります。株数を増やしたいお気持ちは分かりますが、欠株が出れば結局は減収です。目安は守っていただくほうが確実です。
Q. マルチは張ったほうがよいですか。
秋作では慎重にご判断ください。春作の黒マルチは地温を上げる目的で使いますが、秋の植え付け直後にこれをやると地温が上がりすぎます。使うのであれば、地温が下がってくる時期に、雑草抑制と保温を目的として後から張る、といった使い方が現実的です。
Q. 大きい種芋ばかり届いた場合、返品はできますか。
種芋は重量で計量してお渡しする商品のため、大小の混在は仕様の範囲とご理解いただいております。大きいものは切り分けてお使いいただくことで、同じ重量からしっかり株数を確保できます。切り方と乾かし方については、この記事の該当章をご参照ください。ご不安があればお気軽にお問い合わせください。
Q. 切ったあと、乾かしている途中で雨に濡れてしまいました。
水気をふき取り、風通しのよい日陰に広げ直して乾かし直してください。広げ直すときに断面どうしが触れないように並べれば、多くの場合は問題なく乾きます。判断の基準は「触ってべたつかないか」です。ただし、濡れた状態で長時間放置して断面がぬめってきている、変色して軟らかくなっているという場合は、その片は使わないほうが安全です。
Q. 買ってきた種芋を、植え付けまでどう保管すればよいですか。
涼しく、直射日光の当たらない、風の通る場所に、袋から出して広げて置いてください。買ったときのポリ袋に入れたまま置くのがいちばんよくありません。袋の中は蒸れ、温度も上がり、傷みの原因になります。コンテナや新聞紙の上に一段で並べておくのが理想です。なお、暗い場所に置くと芽が白く徒長しやすいので、薄明かりが入る程度の場所のほうが、締まった短い芽になります。冷蔵庫には入れないでください。低温は芽の伸びを抑える方向に働き、休眠明けをかえって遅らせます。しばらく置いても芽がまったく動かないようであれば、22〜24℃くらいを保てる場所へ移して数週間ようすを見てください。その温度帯がいちばん休眠明けが進みます。
Q. 芽が出ない株があります。掘って確認してもよいですか。
発芽まで2〜3週間かかることがありますので、まずはお待ちください。3週間を大きく過ぎても動かない株は、そっと土をよけて種芋の状態を確認します。硬いままなら待ち、溶けていれば植え直しの判断です。ただし植え直しが遅くなるほど、イモが太る日数は短くなります。
まとめ
2026年の秋作に向けて、種芋の扱いについて押さえていただきたい点を整理します。
- 秋でも種芋は切ってよい。腐敗の原因は切ることではなく、切り口を乾かさずに植えること。
- 切ったら風通しのよい日陰で2〜3日。直射日光・密閉・雨を避け、断面がべたつかなくなってから植える。
- そのまま同じ場所で芽出しをする。太く短い芽(5mm前後)を動かしてから植えると、土の中で無防備な期間が短くなる。株数が少ないなら箱やポットで芽出しして定植すると欠株を防げる。冷蔵庫に入れるのは逆効果。
- 切り方は縦割り。頂部―へその方向に沿って割り、1片40〜50g・芽2個以上を確保する。
- 種芋の大小は品質差ではない。1片40〜50gにそろえれば、同じ重量から立つ株数は丸ごとでも切り分けでも同じ。大きいイモは切ることで1片の重さを自分で決められ、芽の出方もそろう。避ける理由はない。
- 1片の大きさは株数と確実性のトレードオフ。40〜50gは標準値であって絶対の正解ではない。株数が少ない畑や残暑の厳しい年は、大きめに割る/丸ごと植えるのも十分に成立する選択。
- 収穫の合図は茎葉の色。霜は終わりの合図ではない。掘るのは茎葉が黄変してから。土まで凍る強い冷え込みのときだけ早めに。
- 植え付けは9月上旬〜中旬、9月いっぱいは射程内。暦より暑さの引き方を見て決める。迷ったら遅らせるほう(早植えの腐敗は収穫ゼロ、遅植えは小ぶりでも穫れる)。浅めに植え、植え付け後にたっぷり水をやらない。
秋作のジャガイモは、作業できる期間が短く、残暑と寒さにはさまれた気のもめる作型です。それでも、植えるまでの段取りさえ間違えなければ、あとは畑が仕事をしてくれます。とくに「切って、乾かして、芽を出させて、浅く植えて、水をやりすぎない」という一連の流れは、この作型のほとんどすべてと言ってよいほど効いてきます。
秋用の種芋は流通する期間が短く、当店でも入荷は限られます。植え付け適期から逆算すると、切って乾かす日数も必要ですので、お求めは早めをおすすめします。種芋の選び方、切り分けの判断、圃場に合わせた植え付け時期など、ご不明な点は店頭でも承っております。どうぞお気軽にお声がけください。
