
8月下旬から9月上旬に畑へ下ろしたハクサイやキャベツの苗が、ようやく根づいて葉を広げはじめた——2026年9月下旬は、多くの畑がそんな段階にあるはずです。植えつけと虫よけを乗り切って、ほっとひと息つきたくなる時期でもあります。
ところが、秋冬野菜には、この「ほっとしたころ」に静かに進んでいく失敗があります。結球しない、玉が小さい、締まりがゆるい、ダイコンが太らない。収穫のときになって初めて気づくこれらの不調は、たいてい虫でも病気でもなく、9月下旬から10月にかけての追肥と土寄せの「時期」で決まっています。
秋冬野菜の追肥は、夏野菜のように「実がつきはじめたら定期的に」という単純な話ではありません。効かせるべき時期と、効かせてはいけない時期がはっきり分かれているのが特徴です。この記事では、キャベツ・ハクサイ・ブロッコリー・ダイコン・レタス・軟弱葉菜まで、温暖地の秋作でいまから必要になる追肥・土寄せの実務を、時期・回数・量・やり方の順に整理します。まず押さえていただきたいのは、次の3つの数字です。
※いずれも種苗各社・JA・公的機関の栽培指針を総合した温暖地の一般的な目安です。品種・作型・畑の肥沃度で前後します。
秋冬野菜の追肥は「結球前に外葉を育てきる」ためにあります
まず、なぜ秋冬野菜の追肥に「締め切り」があるのかを共有させてください。理由は、ハクサイやキャベツ、レタスといった結球野菜の育ち方にあります。
結球野菜は、外側に広げた葉(外葉)で光合成をして養分をつくり、その養分を内側の葉に送って玉を巻いていきます。つまり玉の大きさは、結球が始まるまでにどれだけ大きな外葉を何枚そろえられたかで、ほぼ決まってしまいます。外葉が小さいまま結球期に入った株は、どれだけあとから肥料を足しても、小さくゆるい玉にしかなりません。「結球し始めてから追肥したのに大きくならない」という相談が毎年ありますが、それは肥料が効かなかったのではなく、効かせる時期がすでに過ぎていたということです。
一方で、結球が始まってからも窒素が強く効いていると、今度は別の問題が出ます。玉の内側の葉ばかりが勢いよく育って外側から割れる(裂球)、組織が軟弱になって軟腐病などの腐敗が入りやすくなる、締まりがゆるく日持ちしない、といった不調です。ハクサイでは、窒素の効きすぎに高温や乾燥が重なると、内側の葉の縁が黒く枯れ込む生理障害(カルシウムの吸収不足によるもの)も出やすくなります。
この二つを合わせると、秋冬野菜の追肥の原則が見えてきます。「前半にしっかり効かせて、結球が始まる前に効き終わらせる」。これがすべての基本です。ダイコンやカブのような根菜は結球こそしませんが、考え方はよく似ていて、根が太りはじめる時期に肥料を切らさず、太っている最中に窒素を効かせすぎないのがコツになります。
夏野菜の追肥を経験された方ほど、ここでつまずきやすい点があります。トマトやナスは、収穫しながら何か月も株を維持するため「実がつきはじめたら2〜3週間ごとに」という継続型の追肥でした。それに対して秋冬野菜の多くは、一定期間で仕上げて一度に収穫する作型です。追肥は「定期的に続けるもの」ではなく、「決まった時期に、決まった回数だけ入れるもの」だと切り替えて考えてください。
結球野菜の玉は、結球が始まる前にそろえた外葉の大きさで決まります。追肥は玉を大きくするためのものではなく、玉をつくる工場である外葉を、結球前に育てきるためのものです。「玉が巻きはじめてから栄養を足す」という順番では、遅いばかりか逆効果になります。
1回目の追肥 ― 「活着してから、葉が触れ合う前」に
1回目の追肥は、植えつけから2〜3週間後、株が活着して新しい葉がはっきり動きはじめたころが目安です。9月上旬に植えた株なら、ちょうど9月下旬にあたります。当店の定植の記事でもお伝えしたとおり、根づく前の株に肥料を効かせようとしても吸えませんし、かえって根を傷めます。活着が先、追肥はあと。この順番だけは崩さないでください。
活着したかどうかは、次の3点で見分けます。①中心から新しい葉が出て、日ごとに大きくなっている。②朝夕にしおれなくなった。③株元を軽く持ち上げても、ぐらつかない。この3つがそろっていれば、根は畑の土に伸びはじめています。逆に、植えて2週間たっても新葉が動かず日中にしおれる株は、活着に手間取っています。そういう株には追肥を急がず、水やりと日よけで根づきを優先してください。
「葉が触れ合う前」というのも大事な目安です。隣の株と葉が触れ合うころには、株はすでに急速に葉を広げる段階に入っています。この生育の立ち上がりに肥料が効いている状態をつくるのが1回目の役割です。触れ合ってから慌てて施すより、その少し前に入れておくほうが、外葉の枚数と大きさが確実にそろいます。
量は、袋の規定量が基本です。一般的な化成肥料であれば、1平方メートルあたり30〜40g、株数で言えば1株あたり10g前後が、種苗各社やJAの指針に共通する目安です。「多いほど効く」と考えて増やすと、外葉が大きく柔らかくなりすぎて虫と病気を呼び、結球期まで窒素が残って裂球の原因になります。1回目は規定量を守り、足りないと感じたら2回目で調整するくらいの控えめさでちょうどよいとお考えください。
まく位置は、株元から10cmほど離した畝の肩、または株と株の間です。株元に直接置くと、根が肥料に触れて傷む(肥料やけ)ことがあります。根は株の外側へ広がりながら伸びていきますから、少し離した場所に置いたほうが、伸びてきた根がちょうど肥料に届く形になります。マルチを張っている畝では、植え穴のふちに施すか、マルチの裾をめくって畝の肩にまきます。
まいたら、クワやテミで肥料と土を軽く混ぜながら、株元に土を寄せます。これが追肥と土寄せをあわせて行う理由で、肥料が土に触れて効きやすくなり、同時に株のぐらつきも抑えられます。追肥後に雨が見込めない場合は、軽く水をやって肥料をなじませてください。乾いた土の上に化成肥料を置いたままにしておくと、いつまでも溶けず効きはじめが遅れます。
追肥の置き場所で迷ったら、「いま根の先端がどこまで伸びているか」を想像してください。定植3週間後の株なら、根は株元から10〜15cmの範囲に広がっています。その外縁に沿って肥料を置き、土と混ぜて軽く寄せる——これだけで、肥料やけを避けながら効きを早めることができます。
追肥の量は「元肥との合計」で考えます
「追肥は何グラムやればよいですか」というご質問を毎年たくさんいただきます。お答えするときに必ずお聞きするのが、「元肥はどれくらい入れましたか」ということです。追肥の量は、それ単独で決まるものではなく、元肥で入れた分との合計で考えるものだからです。
秋冬野菜の多くは、生育期間の全体を通して必要な養分のうち、おおむね半分から3分の2を元肥で、残りを追肥でまかなう設計になっています。定植前に堆肥と元肥をしっかり入れた畑では、追肥は「切れないように補う」程度で足ります。逆に、元肥が少なかった畑や、夏野菜の跡地を耕しただけで元肥を入れずに植えた畑では、追肥の役割が大きくなり、1回目をやや多めに、時期も早めに入れる必要があります。
畑の肥沃度を読む手がかりとして、前作の様子がいちばん役に立ちます。夏野菜が最後まで葉色濃く元気だった畝は、土に養分が残っています。逆に、夏の終わりに葉が黄ばんで勢いが落ちていた畝は、養分を使い切っている可能性が高いと考えられます。もうひとつは、定植後2週間の葉色です。元肥が効いている畑では、活着した株の新しい葉が濃い緑で厚みがあります。ここで葉色が薄く、葉が小さいようなら元肥が不足していますから、1回目の追肥を規定量の上限で入れます。
肥料の種類については、秋冬野菜の追肥には窒素・リン酸・カリがそろった一般的な化成肥料で十分です。ただし「窒素だけ」の肥料を追肥に使うと効きが鋭く、外葉が軟弱になりやすいので、はじめての方には三要素が均等に近いものをおすすめしています。緩効性(ゆっくり長く効くタイプ)の肥料は、元肥には向きますが、追肥に使うと効きはじめが締め切りに間に合わないことがあります。追肥には速効性のものを、と覚えておいてください。
そして、量の基準になるのは、あくまで肥料の袋に書かれた規定量です。「1平方メートルあたり30〜40g」という本記事の目安は、成分がそれぞれ8%前後の化成肥料を前提にした一般的な数字で、成分の高い肥料ではそれより少なく、低い肥料では多くなります。袋の表示を必ず確認して、規定量を超えないこと。秋冬野菜の追肥では、この一点を守るだけで失敗の大半を避けられます。
2回目の追肥 ― 「結球が始まる直前」が締め切り
2回目の追肥は、1回目から2〜3週間後、結球(または花蕾の形成)が始まる直前に施します。9月上旬定植の株なら10月上旬〜中旬です。この2回目が、外葉を育てきるための最後の一押しであり、同時に「これ以降は窒素を入れない」という締め切りでもあります。
「結球が始まる直前」を、どうやって見分けるか。品目ごとにサインがあります。キャベツは、中心の葉が横に広がらず、立ち上がって内側に抱え込むように巻きはじめたとき。それまで平らに開いていた葉の姿勢が、明らかに変わります。ハクサイは、外葉が20枚前後にそろい、中心の葉が立って内側に巻きはじめたとき。種まきからおよそ40〜45日、定植から3週間強が目安で、朝に株を上から見ると中心が締まって見えてきます。ブロッコリーは、中心の葉の奥に小さな花蕾(つぼみの塊)が見えはじめる少し前、定植から4〜5週間ごろです。
この時期の追肥は、畝の両側の肩か、条間の通路側に施して土寄せします。株はすでに大きく、株間にはほとんど入れなくなっているはずです。量は1回目と同程度。ここでも増やしすぎないことが大切で、2回目は「効かせる」というより「結球期に切れないように補う」という位置づけです。1回目でしっかり葉が育ち、葉色も濃いようなら、2回目は量を減らすか省く判断も十分にあります。
そして、結球が始まってから、あるいは花蕾が見えてからの窒素追肥は行いません。これは「してもよいが効果が薄い」ではなく、「しないほうがよい」という種類の話です。結球期の窒素は裂球と腐敗、品質低下の原因になります。「もっと大きくしたい」という気持ちを、ここで止めることが秋冬野菜の技術だと言ってもよいくらいです。結球が始まって以降にできることは、水を切らさないこと、土寄せで株を安定させること、そして病害虫を見回ることに絞られます。
追肥当日の作業手順 ― 30分で1畝を仕上げる
時期と量が決まったら、あとは作業です。慣れれば10m前後の畝を30分ほどで終えられます。手順を、当店で実際にお伝えしている流れでご説明します。
前日〜当日朝に確認すること。まず天気です。追肥は土が適度に乾いていて、当日から翌日にかけて大雨の予報がない日に行います。雨の直前にまくと肥料が流れますし、ぬれた土で土寄せをすると土が固まります。次に株の様子です。活着しているか、結球が始まっていないか、葉裏や芯に虫がいないかを確認しておきます。用意する道具は、肥料・計量用のカップかはかり・テミやクワ・じょうろがあれば十分です。防虫ネットを掛けている畝なら、裾を埋め直すための小さな鍬も添えておきます。
手順1 ― 肥料を量る。畝の長さと幅から面積を出し、規定量を掛けて総量を決めます。10m×0.7mの畝なら7平方メートル、1平方メートルあたり30gなら約210gです。この「先に総量を量る」ひと手間が、まきすぎを防ぎます。手づかみで感覚的にまくと、たいてい規定量の倍近くになります。
手順2 ― 株の様子を見る。芯と葉裏をひととおり見て、卵や幼虫がいれば取り除きます。防虫ネットを掛けている畝の場合は、トンネルの裾を片側だけ土から外し、ネットを反対側へ寄せて作業します。全部外すより早く済み、虫の侵入も減らせます。
手順3 ― 畝の肩に肥料をまく。株元から10cmほど離れた畝の肩に、量った肥料を畝の端から端まで均一に筋状にまきます。株間にまく場合も、株そのものには触れないようにします。マルチ栽培なら、裾をめくって同じように肩へ。
手順4 ― 土と混ぜて、株元へ寄せる。クワやテミで畝の肩の土を軽く削るように動かして肥料を土に混ぜ、そのまま株元へ寄せます。深く耕す必要はありません。表面の土を数cm動かす程度で、肥料は土に隠れ、株元には土が寄ります。このとき、生長点に土がかからないよう、葉の下に土を入れる意識で行います。
手順5 ― 水をやって仕上げる。雨が見込めなければ、じょうろで畝全体に軽く水をやって肥料をなじませます。ここまでで作業は終わりです。防虫ネットを掛けている畝の場合は、最後にネットを元どおりかけ、裾を土に埋め直します。「開けたら、その日のうちに閉める」が原則です。反対側の肩は、2回目の追肥のときに同じ手順で行うと、根の両側にむらなく効かせられます。
品目別 ― 追肥と土寄せの目安
基本の考え方は共通ですが、品目によって回数と締め切りの見方が少しずつ違います。温暖地の秋作で主力になる品目について、追肥の時期と土寄せの狙いを整理します。
カブ・コマツナ・ミズナ・チンゲンサイなど、ここに挙げなかった小型の葉物や根菜も、基本は軟弱葉菜と同じ「元肥で仕上げ、必要なら間引き後に薄く1回」です。カブは根が太りはじめてからの窒素で割れやすくなるので、追肥するなら間引き直後の1回にとどめます。タマネギの苗床は、育苗中に薄い追肥を1〜2回行って苗を太らせますが、定植の直前は控えて締まった苗にします。
ここで挙げた時期はすべて「目安」であり、畑の肥沃度と天候で前後します。大切なのは日数ではなく、株の状態(活着したか・葉が触れ合いはじめたか・巻きはじめたか)で判断することです。日数だけで機械的に追肥すると、生育の早い年には遅れ、遅い年には早すぎることになります。
土寄せは「倒れ防止」だけの作業ではありません
追肥とあわせて行う土寄せは、地味な作業ですが役割が多く、秋冬野菜の仕上がりを目に見えて変えます。何のためにやっているのかを知っておくと、手の入れ方が変わります。
ひとつめは、株の安定です。秋冬野菜は定植後の1か月で急速に葉を広げ、地上部が重くなります。株元がぐらつくと細い根が切れて吸収が落ち、ブロッコリーでは花蕾の重みで倒伏し、ダイコンでは根が曲がります。株元に土を寄せて軽く押さえるだけで、これらをまとめて防げます。
ふたつめは、追肥を効かせることです。畝の肩にまいた化成肥料は、土と混ざって初めて溶けはじめます。土寄せで肥料を土に埋め込むことは、追肥の効きを早め、雨で流れてしまうのを防ぐ作業でもあります。
みっつめは、除草と排水です。畝の肩や条間の土を削って株元に寄せる動作は、そのまま小さな雑草を土ごと処理することになります。同時に、削った条間はわずかに低くなり、雨水の通り道ができます。秋の長雨で畝間に水が滞ると根が傷み、病気の入り口になりますから、土寄せは畝の形を整えて水はけを保つ作業でもあるのです。
寄せる土は、畝の肩と条間の表土から取ります。畝の外の通路から土を運んでくる必要はありません。畝の肩を軽く削って株元へ寄せ、削った分だけ畝の形が整う——この動きが基本です。ブロッコリーやカリフラワーのように茎が高くなる品目では、1回目より2回目の土寄せを多めにして、茎の下部を土で包むようにすると、茎から出る不定根が土に入って株がしっかりします。ダイコンでは、根が地上に伸び出して首が見えてきたころに、首の周りに土を寄せて根を安定させます。ただし、根の肥大を邪魔しないよう、押しつけずにふんわりと寄せてください。
気をつけていただきたい点も3つあります。①生長点に土をかけない。ハクサイ・キャベツ・ダイコンの中心の芽に土が入ると、生育が止まったり腐敗の原因になります。土は葉の下、株元の茎の周りに寄せます。②結球が始まったハクサイの外葉の下に土を入れない。湿った土が結球部に触れると腐りやすくなります。③雨で土がぬれているときに行わない。ぬれた土を寄せると固まって通気が悪くなり、畝間を踏み固めることにもなります。土寄せは、土が適度に乾いた日の午前中が最適です。
マルチ栽培・プランター栽培での追肥のやり方
残暑期の定植ではマルチを張った方が多いと思います。マルチ栽培は保水・地温・泥はね防止の面で優れていますが、追肥と土寄せがしにくいのが唯一の弱点です。やり方を3つご紹介します。
ひとつめは、植え穴のふちに施す方法です。植え穴から見えている土の部分に、株元から少し離して肥料を置き、指や小さな移植ごてで軽く土と混ぜます。株がまだ小さい1回目に向いています。穴の範囲が狭いので、量は控えめにし、施したあとに少量の水をやって溶かします。
ふたつめは、マルチの裾をめくって畝の肩に施す方法です。畝の片側の裾を止めている土をどけてマルチを持ち上げ、畝の肩に肥料をまいて土と混ぜ、マルチを戻して裾を埋め直します。手間はかかりますが、根の先端が届く位置に施せるので効きがよく、株が大きくなった2回目に向いています。片側ずつ、1回目と2回目で左右を変えると、根の両側にむらなく効かせられます。
みっつめは、液体肥料を使う方法です。規定倍率に薄めた液肥を、植え穴から株元の周囲にじょうろで与えます。土を動かさずに済み、効きも早いので、マルチ栽培の追肥としてはもっとも手軽です。ただし効きが切れるのも早いため、1週間おきに2〜3回に分けて与えるのが基本になります。化成肥料の1回分に相当する量を、数回に分けて与えると考えてください。
マルチ栽培では土寄せができない分、株のぐらつきを防ぐ手立てが別に要ります。ブロッコリーのように高く伸びる品目は、植え穴の周りの土を少し盛って押さえるか、短い支柱を添えて倒伏を防ぎます。キャベツやハクサイは、マルチが根元をしっかり押さえてくれる分、土寄せなしでも比較的安定しています。
プランター栽培の場合は、土の量が限られている分、畑より肥料切れが早く来ることを前提にしてください。目安は畑より1週間ほど早く、1回の量は少なめに。用土の表面に化成肥料をぱらぱらとまいて指で軽く混ぜるか、液肥を週1回のペースで与えます。プランターは水やりのたびに養分が流れ出るので、「少量を回数多く」が原則です。結球が始まったら追肥をやめる点は、畑と同じです。
肥料切れ?効きすぎ?別の原因? ― 葉の様子で見分ける
追肥の要不要を決めるいちばんの手がかりは、葉の色と姿勢です。ただし、葉が黄色いからといって必ず肥料切れとは限りません。「肥料が足りない」「肥料が効きすぎている」「肥料とは関係ない原因」の3つを見分けられると、追肥の判断を誤らなくなります。
| 葉の様子 | 考えられること | 対応 |
|---|---|---|
| 下の葉から順に黄色くなり、株全体の緑が薄い | 窒素の不足(肥料切れ)。古い葉の窒素を新しい葉に回している状態 | 結球前なら追肥。結球が始まっていれば追肥せず、水管理を優先 |
| 葉が濃い緑で大きく柔らかい。葉が波打ち、株が間のびしている | 窒素の効きすぎ。虫と病気を呼びやすく、結球が遅れる・ゆるくなる | 追肥は省く。土寄せと水管理のみ。見回りを増やす |
| 新しい葉から黄色くなる。葉脈は緑で葉脈の間が黄色い | 微量要素の不足、または根の傷み(過湿・肥料やけ・根の病気)。窒素切れではない | 追肥では直らない。排水と根の状態を確認。株元を掘って根を見る |
| 葉の縁だけが枯れ込む。ハクサイの内側の葉の縁が黒く枯れる | カルシウムの吸収不足。高温・乾燥・窒素過多で起きやすい生理障害 | 窒素追肥は逆効果。水を切らさない。株元の乾燥を防ぐ |
| 日中しおれて夕方戻る。葉色は正常 | 水不足、または根の張りが追いついていない。肥料の問題ではない | かん水。しおれが続くなら根の傷みや害虫(根を食う虫)を疑う |
| 特定の株だけ急にしおれ、葉が黄化。株元や葉に病斑 | 病気(根こぶ病・萎黄病・軟腐病など)の可能性 | 追肥しない。株を抜いて根を確認し、周囲に広げない |
覚えていただきたいのは、「黄色い=追肥」ではないということです。とくに新しい葉から黄色くなる症状や、特定の株だけが急に弱る症状は、追肥ではむしろ悪化します。判断に迷うときは、株元の土を少し掘って根の色と量を見てください。白くて細かい根がよく張っていれば肥料の問題、根が茶色く少なかったり、こぶがついていれば根の問題です。
やってはいけない追肥・4つ
お店でお聞きする失敗には、共通する型があります。どれも「よかれと思って」やってしまう行動なので、あらかじめ知っておくだけで避けられます。
残暑が長い2026年の秋、追肥で気をつけたいこと
2026年は夏の高温に続いて、9月に入っても残暑が長引きました。この気象は、追肥の効き方にも影響します。温暖地の秋作でとくに意識していただきたい点を3つ挙げます。
その前に、9月下旬時点の畑の状況を品目ごとに確認しておきます。8月下旬〜9月上旬に定植したハクサイ・キャベツ・ブロッコリーは、活着を終えて葉を広げている段階で、まさに1回目の追肥の時期です。ハクサイは早ければ10月上旬に結球が始まりますから、2回目までの間隔が短いことを意識してください。9月上旬〜中旬に種をまいたダイコンは、本葉4〜5枚で1本に間引く時期にあたり、間引きと同時に1回目の追肥と土寄せを行います。9月中旬以降に定植したレタスや、まき直した葉物は、まだ活着の段階なので追肥は待ちます。一枚の畑に生育段階の違う畝が並ぶ時期ですから、畝ごとに「いまどの段階か」を見て、追肥の要不要を分けて判断してください。
ひとつめは、気温が高いと肥料が早く強く効くことです。地温が高いうちは、土の中で肥料が分解されて植物が吸える形になる速度が上がります。同じ量でも例年より効きが強く出やすく、外葉が必要以上に大きく柔らかくなりがちです。9月中の1回目は、規定量の範囲でやや少なめから入るのが安全です。
ふたつめは、生育が早い分、締め切りも早く来ることです。高温で生育が進んだ株は、日数の目安より早く結球に入ります。「定植から3週間たったから2回目」と日数で考えていると、すでに巻きはじめていて手遅れ、ということが起こります。今年は日数より株の姿を優先して判断してください。ハクサイは特に、中心の葉が立ってきたらすぐに2回目を済ませます。
みっつめは、秋雨と台風のあとの肥料の流亡です。まとまった雨のあとは、畝の肩に施した肥料が流れて効きが落ちることがあります。とくに砂質の畑や水はけのよすぎる畑では、雨のあとに葉色が急に薄くなることがあります。結球前であれば、様子を見て少量を補います。逆に、乾燥が続いて肥料が溶けないときは、追肥後に軽くかん水するか、規定倍率に薄めた液体肥料で補う方法もあります。液肥は効きが早く、切れるのも早いので、「いま少しだけ効かせたい」場面に向いています。
ここで、9月上旬に定植した株を例に、10月から収穫までの管理の流れをまとめておきます。9月下旬に1回目の追肥と土寄せ。10月上旬〜中旬、結球や花蕾形成の直前に2回目の追肥と土寄せ、これが窒素の締め切り。10月中旬以降は追肥をやめ、結球期の水管理に切り替えます。ハクサイ・キャベツは結球期に水を切らすと玉が締まらず、逆に長雨で過湿が続くと腐敗が入るので、乾いたらたっぷり、畝間に水をためないが基本です。ダイコンは根が太る時期に乾湿の差が大きいと裂根するので、乾燥が続くときは畝間にかん水します。11月に入って気温が下がると生育はゆっくりになり、玉が締まって手で押しても硬くなったら収穫期です。早生のハクサイやキャベツで11月中旬〜下旬、中生・晩生で12月以降が温暖地の目安になります。
そして、これらの管理と並行して続けていただきたいのが、虫の見回りです。追肥のたびに芯と葉裏を見る習慣にしておくと、初期の食害を見逃しません。防虫ネットを掛けている畝の場合は、追肥や土寄せのために開ける機会が増える時期でもあります。当店の8月末の記事でお伝えしたとおり、虫が入るのはたいてい「開けた日」です。作業後は必ずその日のうちに閉め、株が大きくなってネットに葉が触れはじめたら、トンネルを高くするか外す判断をしてください。窒素が効きすぎた柔らかい葉ほど虫と病気に狙われやすいという意味でも、追肥の加減と防除はつながっています。
よくある質問
秋冬野菜の追肥について、お店でよくいただく質問をまとめました。
Q. 結球が始まったのに外葉が小さい。今から追肥すれば大きくなりますか?
残念ながら、結球が始まってからの追肥で玉は大きくなりません。外葉の大きさが決まった時点で、その株の玉の上限も決まっています。今からできるのは、水を切らさずに、いまの外葉の力で玉をきちんと締めることです。小さくても締まった玉は十分においしく仕上がります。ここで追肥をすると、玉が大きくならないうえに裂球や腐敗のおそれだけが増えるので、我慢してください。次の作では、1回目の追肥を活着後すぐに入れることで改善します。
Q. ダイコンは追肥しなくてもよいと聞きました。本当ですか?
元肥が十分に入った肥沃な畑であれば、追肥なしで仕上がることはあります。ただ、ダイコンは根が太りはじめる時期に肥料が切れると、その後いくら足しても太りが戻りにくい品目です。目安として、1本に間引いたあとに1回、根が太りはじめるころにもう1回、いずれも少量を株元から離して施し、土寄せするのが安全です。逆に、窒素が多すぎると葉ばかり茂って根が細く、す入りや裂根も増えます。「少量を2回」が、太らせすぎず切らさない、ちょうどよい加減です。
Q. 有機質肥料(油かす・鶏ふんなど)で追肥してもよいですか?
使えますが、効きはじめるまでに時間がかかる点を計算に入れてください。油かすなどの有機質肥料は、土の中で分解されてから効くため、施してから効きはじめるまでに1〜2週間程度を見ておく必要があります。「結球が始まる直前」の締め切りに合わせるなら、化成肥料より1〜2週間早く施すのがコツです。また、分解が進みにくい低温期には効きが鈍くなるので、10月中旬以降の追肥は速効性のある肥料のほうが確実です。発酵の進んだ(完熟した)ものを選び、未熟なものは根を傷めるので避けてください。
Q. 追肥を1回忘れて、もう結球が始まりそうです。今からでも間に合いますか?
「まだ中心の葉が立ちはじめたところ」なら、すぐに規定量を施してください。効きはじめるまでの数日は結球の初期に重なりますが、外葉がまだ広がっている段階なら意味があります。速効性の化成肥料か、液体肥料を使うと効きが早くて確実です。すでに中心がはっきり巻いて玉の形が見えている場合は、追肥せずにそのまま仕上げます。遅れた分を取り返そうとして多めに施すのは、いちばん避けたい対応です。
Q. 追肥のあと、葉の縁が茶色く枯れました。何が起きたのですか?
株元に近すぎる場所に肥料を置いたか、量が多すぎたことによる肥料やけの可能性が高いです。根が肥料の濃い液に触れて水を吸えなくなり、葉の縁から枯れ込みます。対応としては、たっぷりかん水して土の中の肥料濃度を下げ、しばらく追肥を止めて様子を見ます。株が小さいうちほど影響が大きいので、次回からは株元から10cm以上離し、規定量を守ってください。なお、ハクサイの内側の葉の縁が黒く枯れる症状は肥料やけではなく、カルシウムの吸収不足による生理障害で、対策は水切れを防ぐことになります。
Q. 追肥のときに、石灰もいっしょにまいてよいですか?
避けてください。石灰資材と窒素肥料(とくに硫安や尿素、それらを含む化成肥料)を同時にまくと、窒素がアンモニアの形で空気中へ逃げてしまい、追肥の効きが落ちます。また、生育途中の株のまわりで急に酸度が変わると、根が養分を吸いにくくなることもあります。酸度の調整は植えつけの2週間前までに済ませておくのが基本で、生育中の畝には行いません。どうしても酸度を上げたい場合は、次の作の準備として、収穫後に行ってください。
Q. 雨の日が続いて追肥ができません。どうすればよいですか?
雨の合間の、土の表面が少し乾いた半日を待って行うのが基本です。どうしても晴れ間がない場合は、土寄せは後回しにして、肥料だけを畝の肩にまいておく方法があります。雨が肥料を溶かして土にしみ込ませてくれるので、効きはじめは早くなります。ただし大雨の直前は流れてしまうので避け、小雨か曇りの時期を選んでください。土寄せは、土が乾いてから改めて行えば十分です。
まとめ ― 「前半に効かせて、結球前に切る」
秋冬野菜の追肥は、回数も量も夏野菜より少なく、作業としては簡単です。難しいのは、「やる時期」と「やめる時期」を見きわめることだけです。次の5つを押さえておけば、2026年の秋作は結球も肥大もそろいます。
玉の大きさは結球前の外葉で決まる。結球後の追肥は玉を大きくせず、裂球・腐敗の原因になるだけ。
新葉が動き、株がぐらつかなくなってから。株元から10cm離した畝の肩に規定量、土と混ぜて軽く土寄せ。
キャベツは芯葉が立ち上がるころ、ハクサイは外葉20枚前後、ブロッコリーは花蕾が見える前。以降、窒素追肥は0回。
追肥のたびに株元へ。生長点に土をかけない、結球部に土を入れない、ぬれた土で行わない。
下葉からの黄化は肥料切れ、新葉からの黄化は根の問題。残暑の年は肥料が強く早く効き、結球も早い。控えめに、早めに。
この記事は、当店の秋のブログ「秋冬野菜の種まきカレンダー2026」(何をいつまくか)、「真夏の育苗ガイド」(まいた種を苗に育てる)、「秋冬野菜の定植ガイド」(畑に植えて活着させる)、「秋冬野菜の初期害虫対策」(植えた株を守る)に続く、"育てる"段階の記事です。ここまで来れば、あとは涼しくなっていく気候が野菜を仕上げてくれます。
秋冬野菜は、追肥の回数が少ないぶん、一度の判断の重みが大きい作型です。「いつやるか」より「いつやめるか」——この感覚を持っていただくだけで、玉の大きさと締まりは確実に変わります。
肥料の選び方や、畑の肥沃度に合わせた量の加減についてのご相談も承っております。「うちの畑は毎年葉ばかり茂って玉が巻かない」「ダイコンが太らない」といった具体的なお悩みほど、原因を絞り込みやすく、お役に立てることが多くあります。どうぞお気軽にお声がけください。
