
トマトやキュウリの種袋・カタログを見ると、「葉かび病(Cf9)に抵抗性」「トマト黄化葉巻病に耐病性」といった記載をよく目にします。字面は似ていますが、「抵抗性」と「耐病性」は植物病理学の世界では明確に区別される別の概念です。品種選定を間違えると、「抵抗性品種のはずなのに病気が出た」「耐病性品種を選んだのに隣の株より被害が大きい」といった失敗につながります。
この記事では、抵抗性と耐病性の学術的な違い、種袋に並ぶ略号(Tm-2a、Cf9、F1、V1…)の読み方、レース分化と「抵抗性崩壊」の注意点、そして品種選びの実践ポイントまで、踏み込んで解説します。
抵抗性と耐病性 ― 本質的な違いはどこにあるか
結論から言うと、両者の違いは「病原菌に感染させないか、感染しても発症させない(被害を抑える)か」という作用の段階の違いです。
植物病理学では、抵抗性は主動抵抗性遺伝子(効果の大きい単一〜少数の遺伝子)によって発揮され、耐病性は効果の小さな遺伝子の集積で発揮されるとされています。つまり遺伝的な仕組みも異なるわけです。
具体的なイメージで比較する
例えば、トマト黄化葉巻病(TYLCV)を例にとります。
- 抵抗性品種:病原ウイルスが株に侵入してもウイルスの増殖自体を抑え込み、病徴が出ないか、出ても極めて軽微に済む
- 耐病性品種:病原ウイルスの感染・増殖は起こるが、葉の黄化やちぢれ、着果不良といった症状がマイルドで、収量への影響が小さい
- 感受性(罹病性)品種:感染すると重篤な症状が出て、着果しなくなる・収量が激減する
種苗メーカーのタキイ種苗が発表する「桃太郎ピース」のカタログを見ると、「トマト黄化葉巻病(Ty-3a型)、トマトモザイクウイルス(Tm-2a型)、萎凋病レース1・2(F1・F2)、根腐萎凋病(J3)、半身萎凋病レース1(V1)、葉かび病(Cf9)、斑点病(LS)、サツマイモネコブ線虫(N)に複合耐病虫性」と記載されています。ここでは「耐病虫性」という表現で抵抗性・耐病性が一括りにされていますが、実際には遺伝子型(Tm-2a、Cf9など)ごとに性質のグラデーションがあります。(これらの略号の読み方は記事後半の「種袋・カタログに並ぶ『略号』の読み方」で詳しく解説します。)
そして注目したいのが「レース1・2(F1・F2)」という表記です。同じ病気なのに「レース1」「レース2」と番号が振られているのはなぜなのでしょうか。ここに、品種選びの重要なポイントが隠れています。
レース分化と「抵抗性崩壊」という落とし穴
「レース」とは、同じ病原菌の中に存在する病原性の異なる系統のことです。例えば萎凋病の場合、レース1に抵抗性を持つ品種でも、レース2やレース3が発生すれば発病します。トマトの萎凋病でF1・F2・F3と番号が振られているのは、このレースの違いを示しています。レースの違いを知らないで品種選びをすると、「抵抗性品種なのに病気が出た」という失敗につながりやすい、経験的によくトラブルになる領域です。
真性抵抗性の品種を長年栽培していると、病原菌側がその抵抗性を突破するように変異し、新しいレースが発生することがあります。これを「抵抗性崩壊」と呼びます。稲のいもち病や、キャベツの萎黄病、トマトの葉かび病など、さまざまな作目で実際に発生してきました。「昔は抵抗性品種で問題なかったのに、最近病気が出るようになった」という場合、レースの変化が原因のことがあります。
対策:単一品種に頼らない
抵抗性崩壊を防ぐには、同一の抵抗性遺伝子を持つ品種だけを連作しないことが基本です。稲・麦などでは、異なる抵抗性遺伝子を持つ同質遺伝子系統を混植する「多系品種(マルチライン)」の利用が実用化されています。野菜の場合は、輪作・品種ローテーション・他の防除法との組み合わせで対応します。
また、葉かび病のCf9のようにより多くのレースに有効な強い抵抗性遺伝子を持つ品種を選ぶのも有効です。長崎県の資料によれば、トマト葉かび病は「Cf9または同等レベルの場合は抵抗性○、それ以外の場合は中程度抵抗性△」と評価されています。
ここで重要なのは、すべての「抵抗性」がレース変異に弱いわけではないという点です。実は「抵抗性」という言葉自体にも2つのタイプがあり、レース変異への強さが違います。次のセクションで見ていきましょう。
「抵抗性」にも2種類ある ― 真性抵抗性と圃場抵抗性
もう一歩踏み込むと、「抵抗性」という言葉自体にも「真性抵抗性」と「圃場抵抗性」という2つのタイプがあります。家庭菜園の方には聞き慣れない用語かもしれませんが、品種選定の考え方に大きく影響するので押さえておきましょう。
メーカーの品種カタログで「強度抵抗性」「中度抵抗性」「やや強」といった表現を見かけますが、これは真性抵抗性と圃場抵抗性の違い、あるいは抵抗性の強度を段階表現したものと考えてよいでしょう。「◎」(抵抗性あり)、「○」(耐病性あり)、「△」(普通)、「−」(記載なし)といった記号でまとめられることもあります(長崎県の資料など)。
現場でよくある「違いを知らない」失敗例
ここまでで、抵抗性と耐病性の違い、レース分化と抵抗性崩壊、真性抵抗性と圃場抵抗性の区別をご紹介してきました。これらの違いを意識しないまま品種を選ぶと、現場では次のような失敗につながります。
- 「耐病性品種を買ったのに病気が出た」と落胆する ― 耐病性は症状を抑える性質であり、感染自体は起こるため、軽い症状が出ることはあります。「発症はするが被害は小さい」が耐病性の本来の意味です。
- 「抵抗性品種を選んだのに萎れた」と混乱する ― 例えば萎凋病F1抵抗性の品種でも、畑にF2が発生していれば普通に萎凋します。対応レースの番号まで確認していないと起こりがちな失敗です。
- 「去年強かった品種が今年ダメだった」と感じる ― 前述の抵抗性崩壊が起こっている可能性があります。連作していた畑で同じ抵抗性遺伝子を持つ品種を使い続けると、病原菌側がその抵抗性を突破してくることがあります。この場合は同じ品種を続けても改善しません。
いずれも「品種が悪かった」のではなく、抵抗性の種類と対応範囲を正しく読み取れていなかったことが原因です。次のセクションでは、現場でさらに混乱しがちな「メーカー表記のゆらぎ」について見ていきます。
メーカーによる表記のゆらぎ ― 注意点
ここまで読んでいただくと、「結局、袋に『抵抗性』と書いてあるか『耐病性』と書いてあるかで、どのくらい違うのか」が気になると思います。実はこの点は、メーカー・品種によってかなり扱いが揺れています。
- メーカーによっては「抵抗性」という表記に統一し、「耐病性」を使わない
- 逆に「耐病性」「耐病虫性」という包括的な表記で、抵抗性も耐病性も区別せず記載する
- 同じ品種でも、メーカーカタログ・種袋・公式サイトで表現が微妙に異なる場合がある
- 国際的には英語で "resistance" に統一され、日本語の「抵抗性/耐病性」の区別にピタリと対応する訳語はない
メーカー表記の「抵抗性」「耐病性」の字面を深く比較するより、対応レース(F1・F2・F3など)や抵抗性遺伝子型(Tm-2a、Cf9など)の有無を見る方が実用的です。同じ「抵抗性」表記でも、F1までしか対応しない品種とF3まで対応する品種では、現場での守備範囲がまるで違います。各略号の意味は記事後半の早見表にまとめています。
品種選びの実践ポイント
理論を踏まえて、実際に種苗を選ぶときのチェックポイントを整理します。
昨年・一昨年に何の病気が出たかを記録し、同じ畑ではその病害の抵抗性を持つ品種を選ぶのが基本。土壌病害(萎凋病、青枯病、ネコブ線虫など)は連作圃場では必ず意識する。
現代の主要品種は複数の病害に同時に強い「複合耐病(虫)性」を持つものが多い。「桃太郎ピース」のように7〜8種類の病害虫に対応する品種は、リスク分散の面でも有利。
萎凋病なら「F1のみ」か「F1・F2」か「F1・F2・F3」かで、対応できるレースが違う。土壌病害は畑に居着くので、発生歴のある畑ではできるだけ高いレース番号まで対応した品種を選ぶ。
同じ抵抗性遺伝子の品種を何年も続けると、レース変異で抵抗性が破られるリスクが高まる。数年おきに異なる抵抗性遺伝子を持つ品種へ切り替えるのが理想。
トマト・ナス・キュウリ・スイカなどの果菜類では、土壌病害に強い台木を使った接ぎ木苗が広く普及。青枯病・褐色根腐病・ネコブ線虫などには台木の選択が最も効果的なことが多い。
抵抗性品種は耕種的防除法の一部であり、万能ではない。輪作、排水改善、太陽熱消毒、適正な施肥、薬剤防除などを組み合わせるのが本筋。特にレース分化する病害では総合防除が必須。
※ベージュ系=基本戦略 / 淡赤系=レース対応 / グレー系=発展的対応
種袋・カタログに並ぶ「略号」の読み方
最後に、実際の品種選びで使える略号の早見表をご紹介します。ここまでに何度か登場したTm-2a、Cf9、F1〜F3、V1・V2、Nといった記号は、品種が対応している病害・害虫を示す国際的な略号です。この表を手元に置いておくと、種袋やカタログを見たときに品種の「守備範囲」が一目で分かるようになります。トマトを中心に、代表的なものを病害のタイプ別に整理しました。
ウイルス病の略号
| 略号 | 病名 | 補足 |
|---|---|---|
| ToMV / Tm-2a | トマトモザイクウイルス | Tm-2a型が最も強く、多くの現代品種が保有 |
| TYLCV / Ty-3a | トマト黄化葉巻病 | タバココナジラミが媒介。暖地で深刻 |
| TSWV | 黄化えそ病(トマト黄化えそウイルス) | アザミウマ類が媒介 |
糸状菌(カビ)病の略号
| 略号 | 病名 | 補足 |
|---|---|---|
| F1・F2・F3 | 萎凋病(いちょうびょう) レース1/2/3 | Fusarium属菌。数字はレース番号 |
| J3 / For | 根腐萎凋病 | 低温期に発生する土壌病害 |
| V1・V2 / Va・Vd | 半身萎凋病 | Verticillium属菌。冷涼期に発生 |
| Cf4・Cf5・Cf9 / Ff | 葉かび病 | Cf9が最も強く広範な菌系に有効 |
| LS / Sbl | 斑点病 | 葉に褐色の斑点が出る |
| K / Pl | 褐色根腐病(コルキールート) | 土壌病害 |
| Lt・On | うどんこ病 | 葉面に白い粉状のカビが生える |
細菌病・害虫関連の略号
| 略号 | 病名・害虫名 | 補足 |
|---|---|---|
| B | 青枯病 | 高温期に多発する土壌細菌病 |
| Cmm | かいよう病 | 種子・道管伝染する細菌病 |
| N / Mi・Ma・Mj | ネコブ線虫類 | サツマイモ(Mi)・アレナリア(Ma)・ジャワ(Mj)など |
※メーカーにより表記が異なる場合があります(例:葉かび病はタキイで「Cf9」、Rijk Zwaanで「Ff:A-E」)。また、同じ略号でも指す病害の範囲が異なることもあるため、詳細はメーカーの品種カタログをご確認ください。
よくある誤解とQ&A
抵抗性品種を選べば病気は絶対に出ない?
いいえ、出ます。抵抗性はその品種が対応している特定の病害・特定のレースに対してのみ有効です。別の病害や別のレースが発生すれば普通に発病します。また、真性抵抗性でも極めて病害圧が高い条件下では発病することがあります。過信せず、全体的な栽培管理と組み合わせることが大切です。
抵抗性品種は味が落ちる?
これも一概には言えません。かつては「抵抗性を強化すると食味が落ちる」と言われた時期もありましたが、育種技術の進歩で抵抗性と食味を両立した品種が次々に登場しています。タキイ種苗の「桃太郎」シリーズは複合耐病虫性と高い食味を両立した代表例です。なお、メーカーによっては同じ名称の品種で「抵抗性強化タイプ」と「標準タイプ」があり、品質が若干異なる場合があります。購入時は品種表示をよく確認してください。
耐性と抵抗性と耐病性は同じ?
農薬の世界では「薬剤耐性」(殺菌剤に対して用いる)と「薬剤抵抗性」(殺虫剤・除草剤に対して用いる)という慣習的な使い分けがあります。一方、本記事で扱う植物側の性質としての「耐病性」は、薬剤耐性とは別の概念です。また英語では薬剤に対する耐性も植物の抵抗性もどちらも "resistance" ですが、薬が効きにくくなる「tolerance」とは別物とされます。少しややこしいですが、文脈で読み分けるのがコツです。
まとめ
抵抗性は感染・増殖そのものを阻止する性質、耐病性は感染しても被害を抑える性質。強さは一般に「抵抗性 > 耐病性」だが、境界は明確ではない。
Tm-2a、Cf9、F1〜F3、V1・V2、N、Bなどの略号は、その品種が何の病害・何のレースに対応しているかを示す実用的な情報。字面の「抵抗性/耐病性」より情報量が多い。
真性抵抗性はレース変異で破られるリスクがある。複数年同じ品種を連作せず、輪作・接ぎ木・薬剤防除を含めた総合防除で対応するのが持続的な農法。
当店では、品種選定に迷われたときのご相談を随時お受けしています。「この畑で○○病が出たのだけど、次はどの品種がいいか」といった具体的な相談も、過去の発生歴や作型をうかがえばメーカーカタログから最適な選択肢をご提案できます。レースまで踏み込んだ品種選びは一見専門的に見えますが、一度覚えてしまうと毎年の種選びがぐっと楽になります。ぜひ種袋の略号表記にも注目してみてください。
📩 お問い合わせ・ご相談