
種袋やカタログに「登録品種」や「PVPマーク」の表記があるのをご覧になったことはありますか。2022年(令和4年)4月の改正種苗法の完全施行から数年が経ち、種苗の袋や広告での表示ルールも定着してきました。しかし、「登録品種と一般品種の違いがよく分からない」「登録品種の苗を買って育てても大丈夫なの?」「近所に苗を分けるのはNGなの?」といったご相談を、店頭でいまも多くいただきます。
先に結論からお伝えすると、当店でお売りしている種や苗は、メーカーや育成者との間で適切な利用許諾が済んだ上で流通しているものです。購入して、ご自分の畑・プランターで栽培する分には、登録品種も一般品種もまったく問題ありません。注意が必要になるのは、「買った種苗を増やして他人に渡す」場面に限られます。
この記事では、登録品種とはそもそも何か、一般品種との違い、消費者が気をつけるべきNG行為、袋や広告で登録品種を見分ける方法までを、2026年時点で押さえておきたいポイントに絞ってまとめました。家庭菜園の方にも、販売目的で栽培される農業者の方にも役立つ内容です。
登録品種とは何か ― 種苗法で保護される「新品種」
「登録品種」とは、種苗法という法律に基づいて農林水産省に品種登録された新品種のことです。新しい品種を開発した人(育成者)が、他人が無断でその品種を増やしたり売ったりすることを防ぐため、知的財産として法的に保護される仕組みです。
新品種の開発には、多くの場合10年以上の期間と多額の研究開発費がかかります。登録品種の制度は、こうした開発者の努力と投資を守り、さらに日本の優れた品種が海外に流出することを防ぐことを目的としています。
過去には、栃木県が開発したいちご「とちおとめ」が海外に流出し、現地で増殖・販売された事例などが問題になりました。シャインマスカット(ぶどう)や紅ほっぺ(いちご)といった日本発の優れた品種も、海外で無断栽培される事態が相次ぎ、本来の産地が得られるはずだった利益を失う状況が深刻化しました。こうした背景から、育成者権の保護を強化し、海外流出に歯止めをかけるため、制度の見直しが進められてきました。
品種登録を受けるためには、①既存の品種と明確に区別できる特性を持つ(区別性)、②同じ世代・異なる世代で特性が均一で安定している(均一性・安定性)、③出願日から一定期間内に販売されていない(未譲渡性)という条件を満たす必要があります。つまり、「これまでに無かった、新しくて品質が安定した品種」であることが求められます。
登録されると、育成者には「育成者権」という独占的な権利が与えられます。育成者権の存続期間は原則25年間(果樹・林木などは30年間)。この期間中は、育成者の許諾なく登録品種の種苗を生産・販売・譲渡・輸出入することはできません。
「登録品種」と「一般品種」はどう違う?
種苗法で保護されるのは登録品種だけです。それ以外の品種は「一般品種」と呼ばれ、権利による利用制限はありません。両者の違いを表にまとめると次のようになります。
| 比較項目 | 登録品種 | 一般品種 |
|---|---|---|
| 該当する品種 | 農林水産省に品種登録された新品種 | 在来種、登録されたことがない品種、登録期間が切れた品種 |
| 権利による保護 | 育成者権で保護される(原則25年) | 保護なし・自由に利用可能 |
| 自家増殖 | 原則として育成者の許諾が必要 | 自由(許諾不要) |
| 海外持出し | 制限される場合あり(要表示確認) | 制限なし |
| 袋への表示義務 | 「登録品種」の表示が必須 | 表示義務なし |
| 代表例 | あまおう(いちご)、シャインマスカット、紅ほっぺなど | コシヒカリ、ふじ(りんご)、巨峰など |
重要なポイントとして、市場に出回っている種苗のすべてが登録品種というわけではありません。現在流通している品種の大半は一般品種で、許諾や許諾料は必要ありません。コシヒカリや巨峰などは有名ですが、育成者権の保護期間が既に切れているため一般品種として扱われます。
2022年改正のポイント ― 何が変わったのか
令和2年(2020年)12月に公布された改正種苗法は、段階的に施行されてきました。主な変更点は以下の4つです。
改正種苗法の自家増殖許諾制は、販売目的で栽培する農業者が対象です。家庭菜園や趣味での栽培、自分や家族で消費する目的の栽培は従来どおり自由で、許諾も許諾料も必要ありません。ただし、増やした苗や収穫物を近所の方や親戚に譲る(無償でも)ことは、登録品種の場合は禁止されています。
買った種苗を栽培するのは自由、でも「増やして他人に渡す」のはNG
ここがこの記事で一番お伝えしたいポイントです。登録品種の種や苗をお店で買って、自分の畑やプランターで育てて、収穫物を食べたり販売したりするのはまったく問題ありません。お店に並んでいる種苗は、生産・販売する事業者が育成者権者と適切な利用許諾契約を結んでいる(=ライセンス料を払っている)ため、消費者の皆さまが購入する段階ですでに権利処理は済んでいます。
問題になるのは、購入した登録品種を「増やして他人に渡す」ことです。ここは法律で厳しく制限されています。
育成者(タキイ種苗・サカタのタネ・都道府県・農研機構など)
↓ 利用許諾契約(ライセンス料を支払い、販売用の生産を許諾)
種苗生産・販売業者(種苗メーカー・苗木生産法人・JAなど)
↓ 種袋・苗として販売(この段階で権利処理済み)
皆さま(消費者・家庭菜園者・農業者)
やってはいけないこと(登録品種の場合)
以下の行為は、たとえ善意や無償であっても、種苗法違反となる可能性があります。登録品種の場合のみが対象で、一般品種(コシヒカリ・ふじなど)には適用されません。
やっていい(=自由な)こと
一方で、以下は登録品種でも自由に行えます。必要以上に怖がる必要はありません。
- 正規に購入した種や苗を、自分の畑やプランターで栽培する
- 栽培して得た収穫物を自分や家族で食べる(家庭菜園)
- 栽培して得た収穫物を販売する(農業者の方の通常の営農)
- 挿し木や株分けで増やした株を自分の畑の中だけで使う(販売目的の農業者は除く/営農利用は許諾が必要な場合あり)
販売目的で自家増殖したい農業者の方へ
販売目的で営農されている方が、登録品種を自家増殖(収穫物の一部を次作の種苗として使うこと)したい場合は、育成者権者の許諾手続きが必要になります。手続きの方法は育成者(民間メーカー・農研機構・都道府県など)や品目によって大きく異なり、無償・有償・団体一括申請などさまざまなパターンがあります。
自家増殖の許諾手続きは、品種ごとに対応が分かれているため、個別にご案内しています。ご自身が栽培されている登録品種の許諾方法や申請窓口について知りたい方は、お気軽に常谷種苗園芸までお問い合わせください。育成者権者や該当のJA・生産者団体の窓口情報をお調べしてお伝えします。
袋や広告で登録品種を見分ける方法
2021年4月以降、登録品種の種苗を販売・譲渡する際は、以下のいずれかの方法で「登録品種である旨」を表示することが義務付けられています。
① 「登録品種」の文字を記載
② 「品種登録」の文字および品種登録番号を記載
③ PVPマークの表示
(いずれか1つ以上の表示があれば基準を満たします)
PVPは「Plant Variety Protection」(植物品種保護)の略で、登録品種であることを示す正式なマークです。以前はサカタのタネや日本種苗協会などが自主的に使っていましたが、2021年4月の改正種苗法施行により、省令で定められた公式マークとなり、どなたでも無償で使用できるようになっています。
袋や広告に海外持出しや栽培地域の制限がある場合は、「海外持出禁止」「○○県内のみ栽培可」などの表示も併せて必要です。これらの表示がない種苗は、基本的に一般品種か、または表示義務違反ということになります。
データベースで検索する方法もあります
袋を手元で確認できないときや、購入前に調べたいときは、以下の2つのオンラインデータベースが便利です。
① 流通品種データベース(JATAFF運営)
流通名(「あまおう」などの商品名)でも検索可能で、一般の方にも使いやすいのが特徴です。登録品種かどうか、自家増殖に許諾が必要かどうかを確認できます。
https://hinshu-data.jataff.or.jp/
② 品種登録データベース(農林水産省)
正式な品種登録名で検索するデータベースです。育成者名、権利存続期間、海外持出し制限の有無なども詳しく確認できます。
農林水産省品種登録ホームページから検索可能
改正時に懸念されたことと、現在までの実際
2020年の種苗法改正時には、「種苗代が高騰して農家経営が立ち行かなくなるのでは」「外資系企業が日本の種苗を独占するのでは」といった不安の声が多く上がりました。完全施行から約4年が経った現在、実際のところはどうなっているのでしょうか。
農林水産省や各種苗関係団体の報告によれば、改正後に許諾料が大きく引き上げられたり、営農が立ち行かなくなったという具体的な事例は確認されていません。自家増殖に許諾料が設定されているケース自体が限定的で、設定されている場合でも従前の種苗購入時の負担水準と大きな差はないよう配慮されています。
また、外資系企業の参入や市場独占といった動きも見られていません。むしろ改正後は、海外流出に対する抑止力として機能し、育成者への不審な問い合わせが減少したとの報告もあります。当初の懸念の多くは、制度の理解が進むにつれて解消されてきたと言えます。
とはいえ、制度の細かな部分(自家増殖の許諾手続き、都道府県ごとの対応の違いなど)は、農家さん側からするとまだ分かりにくい面が残っているのも事実です。ご自身の栽培品種について疑問がある場合は、種苗を購入した販売店や育成者団体に問い合わせるのが一番の近道です。
誤解されやすいポイント ― 交雑・品種名の違い
登録品種については、以下のような「よくある誤解」もしばしば耳にします。整理しておきましょう。
交雑した種は登録品種になる?
在来種を栽培していて、近隣の登録品種の花粉が飛んできて交雑した場合でも、採れた種の特性は通常「登録品種と同一」にはなりません。登録品種の権利が及ぶのは、全ての特性が登録品種と同じ種苗に限られます。意図しない交雑で権利侵害になることは基本的にありません。
流通名と品種登録名が違うことがある
いちごの「あまおう」は、実は「あまおう」は商標登録名で、品種登録名は「福岡S6号」です。このように流通名(商品名)と登録名が別になっているケースは、有名な品種ほど多く見られます。農林水産省の品種登録データベースで検索する際は登録名が必要になるため、調べたい品種は先ほどご紹介した流通品種データベースのほうが検索しやすいです。
家庭菜園で「自分用に種を採る」のはダメなの?
ご自身の家庭菜園で登録品種を育てて、収穫物から種を採り、翌年自分の畑で蒔く分には問題ありません。家庭菜園・趣味栽培・自家消費の範囲であれば、種取りや株分けは自由です。
問題になるのは、増やしたものを他人に渡す(譲る・売る)場合です。自分の中で完結している限りは制限はかかりません。ただし、F1品種(一代交配種)は自家採種しても親と同じ性質が出ないため、そもそも種取りの意味があまりない点は覚えておくと良いでしょう。
まとめ
登録品種について押さえておきたい3つのこと
- お店で買って、自分の畑で育てる分には自由 ― 販売されている種苗は、生産・販売業者が育成者権者と適切な許諾契約を結んだ上で流通しています。皆さまが正規に購入して栽培・収穫・販売する行為は、登録品種でも一般品種でも制限されません。
- NGなのは「増やして他人に渡す」こと ― 登録品種を挿し木・株分け・種採りで増やして、ご近所に分ける、フリマアプリで売る、海外に持ち出すといった行為は、たとえ善意・無償であっても違反になります。一般品種(コシヒカリ・ふじ等)は対象外です。
- 見分け方は袋の表示とデータベース ― 「登録品種」「品種登録番号」「PVPマーク」のいずれかが表示されていれば登録品種です。迷ったときは流通品種データベースで検索するか、販売店にお気軽にご相談ください。
登録品種の制度は、一見すると農家さんや家庭菜園の方の負担を増やすように思われがちですが、実際には日本の優れた品種を守り、育成者と生産者双方の利益を長期的に支えるための仕組みです。普段どおり種苗を購入して栽培する限りは何も変わりません。増やしたものを他人に渡さない―ここさえ守れば大丈夫です。ご不明な点があれば、お気軽に当店までお問い合わせください。
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