改正種苗法が成立 ― 育成者権は35年に延長、12月からは出願中の品種も輸出差止めの対象に。自家増殖のルールは変わりません

種袋の表示と品種登録の書類を確かめる様子

2026年7月17日、種苗法を改正する法律が国会で成立し、7月24日に公布されました。施行は2026年12月1日。ただし、育成者権の存続期間を延ばす部分などは、公布の日からすでに施行されています。前回の大きな改正(2020年公布、2022年4月に完全施行)では「登録品種の自家増殖が許諾制になる」という点に注目が集まり、農家さんの間でも不安の声が多く聞かれました。今回も「また何か厳しくなるのか」「自分の作業に関係するのか」というご相談を、店頭でいただくようになっています。

先に結論をお伝えします。今回の改正は、品種を開発した人(育成者)の権利を、海外流出や無断利用に対して強くすることが中心で、農業者に新しい手続きや義務を課すものではありません。正規に買った種や苗で栽培し、収穫物を出荷するという通常の営農は、改正の前と後で変わりません。2022年から始まっている登録品種の自家増殖の許諾制も、今回の改正では手が入っていません。

そのうえで、生産者の方が知っておいたほうがよい変化は、いくつかあります。登録品種の権利がいつまで続くのか、品種名を付けて苗を売るときに何が変わるのか、無断で利用したときの賠償がどう重くなるのか。どれも、品種の選び方や、苗の増やし方・売り方に関わってくる話です。

この記事では、2026年の改正の中身を条文と農林水産省の公表資料に沿って整理し、生産者の目線で「関係するところ」と「関係しないところ」を分けてお伝えします。登録品種と一般品種の違いや、自家増殖のルールそのものは、5月の当店の記事「登録品種とは」でまとめていますので、あわせてご覧ください。


今回の改正は何のためか ― 「育成者権の保護の強化」

法律案に添えられた提出理由には、「育成者権侵害の多様化が進んでいる状況に鑑み、育成者権の保護の強化及びその円滑な行使の確保のため」と書かれています。農林水産省の説明資料からは、背景として大きく2つの事情が読み取れます。

ひとつは、新品種の開発が以前より難しく、時間もかかるようになったことです。高温に強く、病気に強く、そのうえ収量も落とさない、といった複数の性質をひとつの品種に持たせるには、高い技術と長い年月が要ります。果樹のように、品種が登録されてから産地が育ち、苗木が増えて木が成るまでに長い期間がかかる作物もあります。資料によれば、日本の品種登録の出願件数は平成19年ごろをピークに減っていて、令和7年度は541件でした。開発した側が投資を回収できる期間を長くしないと、新しい品種が生まれにくくなる、という問題意識です。

もうひとつは、日本で開発された品種の海外流出が続いていることです。農林水産省が2025年に中国・韓国のインターネット販売サイトを調べたところ、日本の品種と同じ名前、あるいは日本の品種を思わせる名前で売られている種苗が54品種見つかったとされています。サツマイモやブドウ、カンキツ、イチゴなど、海外で栽培が広がっている例も資料に挙げられています。前回の改正で海外持ち出しを制限できるようにしましたが、それでも防ぎきれない「抜け道」が残っていた、というのが今回の出発点です。

資料に載っている例をひとつ挙げます。サツマイモの「べにはるか」は2010年に日本で品種登録されましたが、2015年ごろに韓国で栽培が始まり、2019年には韓国のサツマイモの作付けの40%近くを占めるまでになったとされています。中国や東南アジアでも栽培が確認されています。海外で日本の品種が無秩序に作られると、海外の市場で日本から輸出する農産物と競合し、品種のブランドの価値も下がります。正規にライセンスしていれば得られたはずの許諾料も、育成者の手に入りません。

つまり、今回の改正は、前回の改正で作った仕組みの穴をふさぎ、権利を行使しやすくするための手直しという性格が強いものです。前回のように、農業者の日々の作業に直接かかるルールを新しく設けたわけではありません。改正点を一覧にすると、次のとおりです。

改正点 中身 いつから
育成者権の存続期間の延長 25年→35年(果樹など永年性の植物は30年→40年)。いま権利が続いている品種にも及ぶ 公布の日(2026年7月24日)
出願中の品種の輸出差止め 品種登録の前でも、出願が公表された品種の無断輸出を止められる 2026年12月1日
輸出目的の保管 海外持ち出しが制限された品種を、輸出するつもりで倉庫などに置いておく段階から権利が及ぶ 2026年12月1日
逆輸入 海外で正規に売られた種苗でも、日本へ持ち込んで使うことには権利が及ぶと明確にした 公布の日(2026年7月24日)
苗の貸し渡し(リース) 権利が及ぶ行為に「貸し渡し」を加えた 2026年12月1日
品種名による推定・賠償額の見直し 登録品種の名前で売った種苗はその品種と推定。無断利用の賠償額を通常の許諾料より高く認定できる 2026年12月1日
その他 審査の優先制度、裁判所が広く意見を募る制度、品種名の使用義務違反の過料を10万円→20万円に 2026年12月1日

表を見ていただくと分かるとおり、ほとんどが「育成者が、無断で使った相手に対して何ができるか」を広げる内容です。順にご説明しますが、その前に、いちばん多くいただく質問にお答えしておきます。

【2026年の改正・日付の整理】
成立:2026年7月17日/公布:2026年7月24日(令和8年法律第72号)/施行:2026年12月1日。ただし育成者権の存続期間の延長と、逆輸入についての明確化は、公布の日から施行されています。改正後の規定は、施行からおおむね5年をめどに見直すことが附則で定められています。

自家増殖のルールは、今回は変わっていません

「今度の改正で、自分で種を採るのが全部だめになるのか」。2026年の改正が報じられてから、こうした質問をいただくことが増えました。答えは、今回の改正で自家増殖のルールは変わっていません、です。改正法の条文には、自家増殖の扱いを変える規定は入っていません。

自家増殖のルールが変わったのは、前回の改正です。2022年4月から、登録品種について、農業者が収穫物の一部を次の作の種や苗として使う(自家増殖する)には、育成者の許諾が必要になりました。この仕組みは、今回もそのまま続いています。そのため、2022年以降に許諾を取って自家増殖している方、許諾の要らない一般品種を自家増殖している方は、今回の改正で手続きを変える必要はありません。

念のため、前回の改正で決まったことをおさらいしておきます。

  • 対象は登録品種だけ。在来種、品種登録されたことのない品種、権利の期間が切れた品種(一般品種)は、これまでどおり自由に自家増殖できます。
  • 対象は「業として」の利用。育成者権は、品種を業として利用する権利です。販売を目的としない家庭菜園や、自分や家族で食べるための栽培には及びません。
  • 正規に買った種苗で栽培し、収穫物を売るのは自由。許諾が要るのは、その種苗を自分で増やして、次の作の種苗にする場面です。

では、登録品種の自家増殖とは、具体的にどんな品目の話でしょうか。「自分は関係ない」と思っている方にこそ確かめていただきたいところです。当てはまりやすい品目を、増やし方で分けると次のようになります。

  • 苗やイモ、株で増やす品目:イチゴのランナー、サツマイモのつる苗、ジャガイモの種イモ、ニラの株分け、花の挿し芽・株分け・球根など。親と同じ性質のものが増えるので、登録品種であれば、こうして増やしたものが自家増殖の許諾や、譲渡の制限の対象になります。
  • 接ぎ木で増やす果樹や花木:穂木を取って接ぎ木したものも、同じ品種を増やしたことになります。
  • 種を採って次にまく、固定した品種:豆類やレタスなど、F1が作りにくく、採った種から親と同じ性質のものが育つ品種(固定種)が中心の野菜です。こうした品目にも新しく育成されて品種登録された品種があり、選んだ株から種を採った場合も、登録品種であれば対象です。昔から地域で受け継がれてきた在来種は、登録されていない一般品種なので対象外です。

一方、F1(一代交配種)の野菜は、採った種をまいても親と同じ性質がそろって出ないため、もともと自家増殖には向きません。2019年に開かれた国の検討会では、種苗メーカーが「民間の種苗メーカーが育成した野菜の品種は、品種登録が積極的に行われてこなかった」と説明しています。親の系統を社内で守っていれば毎年種を買ってもらえること、品種の入れ替わりが早いこと、裁判で権利を守るのが難しかったことが理由に挙げられていました。とはいえ、登録されているF1もあるので、最終的には袋の表示で確かめてください。

農林水産省の統計(2020年12月時点の累計)では、品種登録の件数は草花類が全体の約6割、観賞樹(庭木・花木)が約2割を占め、野菜・果樹・食用作物はそれぞれ5〜7%ほどです。件数では花や庭木が中心ですが、件数の少ない品目でも、産地で広く作られている品種が登録品種ということはあります。苗やイモで増やしている品目、種を採っている品目がある方は、この記事の後半でご紹介する手順で、一度確かめておいてください。

前回と今回の改正を並べると、性格の違いがよく分かります。

前回の改正(2020年公布) 今回の改正(2026年公布)
主な相手 登録品種を使う人すべて(農業者を含む) 無断で利用・輸出する人
農業者の自家増殖 登録品種は許諾制に(2022年4月〜) 変更なし
海外への持ち出し 登録品種の持ち出し先を制限できるように 出願中の品種、輸出目的の保管、逆輸入まで広げた
種苗の表示 「登録品種」の表示を義務化 表示のルールは変更なし(品種名の使用義務違反の過料を引き上げ)
権利の期間 変更なし(25年・永年性の植物は30年) 35年・永年性の植物は40年に延長

前回は、登録品種を使う側のルールを新しく決めた改正でした。今回は、そのルールを破った相手に対して、育成者が手を打ちやすくする改正です。ルールを守って種苗を使っている方にとって、新しくやらなければならないことは、ほとんど生まれていません。

ネット上では、今回の改正を「自家増殖がさらに厳しくなった」と紹介している記事も見かけますが、条文にそうした内容はありません。2026年の改正の中身は、条文と農林水産省の公表資料で確かめるのが確実です。この記事も、その2つに沿って書いています。

【注目ポイント】ただし「許諾が要る期間」は長くなります
自家増殖のルールそのものは変わりませんが、次の章でご説明する存続期間の延長によって、登録品種が一般品種になる時期が10年先に延びます。「あと数年で権利が切れるから、そのあとは自由に増やせる」と見込んでいた品種がある場合は、その見込みが変わります。ルールは同じでも、影響はここに出てきます。

育成者権は10年延びて35年に ― いま続いている権利にも及びます

今回の改正で、生産者の方にいちばん関係が深いのはこの点です。育成者権の存続期間は、これまで品種登録の日から25年(果樹など永年性の植物は30年)でした。これが35年(同40年)になりました。5月の当店の記事「登録品種とは」も、改正後の年数に合わせて書き改めています。

農林水産省の資料によると、植物の品種を保護する国際条約(UPOV条約)が定める存続期間の下限は20年(永年性の植物は25年)で、日本はこれまで25年(同30年)でした。改正後の35年(同40年)は、加盟国の中で最も長い水準になります。新品種の開発と、その品種を使った産地づくりに長い時間がかかるようになったことが、延長の理由として挙げられています。

見落としやすいのは、この延長が、これから登録される品種だけでなく、いま権利が続いている品種にも及ぶことです。改正法の附則では、延長の規定は公布の日(2026年7月24日)に「現にその存続期間が満了していない育成者権について適用」するとされています。しかもこの部分は12月を待たず、公布の日から施行されています。

切れる直前だった品種も、10年延びています

農林水産省の説明資料には、権利が切れた品種と、これから切れる予定だった品種の例が並んでいます。そこでは、カンキツの「せとか」とナシの「あきづき」が、2026年10月19日に満了予定とされていました。公布の日の時点でまだ権利が続いていたため、これらも延長の対象になり、満了は10年先になる計算です。同じ表に載っているブドウの「シャインマスカット」は、2036年3月とされていた満了予定が、2046年に延びます。

果樹の例が並んでいますが、仕組みは野菜や花、イモ類でも同じです。登録の日から数えて25年(または30年)で切れる予定だった権利は、すべて35年(または40年)まで延びています。サツマイモやイチゴ、花の苗物のように、苗を自分で増やして使うことの多い作物では、「何年に権利が切れるか」が経営の計画に関わってきます。手元の資料やメモに満了の年を書いている方は、10年足して読み替えてください。

許諾料を払って自家増殖している品種では、その支払いが続く期間も延びることになります。育成者の側から見れば、許諾料を受け取れる期間が延びて、開発にかけた費用を回収しやすくなるということです。それが今回の延長のねらいそのものです。許諾の条件(料金や手続き)がどう変わるかは、法律ではなく育成者ごとの判断になりますので、気になる品種があれば育成者の案内を確かめてください。

すでに切れた品種は、元には戻りません

一方で、公布の日より前に権利が切れていた品種は、延長されません。附則に「存続期間が満了した育成者権については、なお従前の例による」とあり、いったん一般品種になった品種が、改正によって登録品種に戻ることはありません。資料の表では、イチゴの「あまおう」(登録名「福岡S6号」)が2025年1月に、リンゴの「シナノゴールド」が2024年8月に満了したとされています。

ここで注意したいのは、品種の名前と権利は別物だということです。育成者権が切れても、品種の名前やブランド名が商標として登録されていれば、その名前を使って売ることには別のルールがかかります。「あまおう」のように、流通している名前と品種登録の名前が違うものもあります。権利の期間が切れたかどうかは、品種登録の名前で確かめる必要があります。

ご自分の育てている品種の権利がいつまでかは、農林水産省の品種登録データベースで、登録の日と存続期間を確認できます。流通している名前でしか分からない場合は、5月の記事でご紹介した流通品種データベースのほうが探しやすいはずです。改正後は「登録の日から35年(永年性の植物は40年)」で数え直してください。


出願中の品種も、海外への持ち出しを止められるように

新しい品種は、出願してすぐに登録されるわけではありません。出願したあと、実際に栽培して性質を確かめる審査があり、農林水産省の資料によれば、出願から登録までに平均で3.3年かかり、果樹では6年ほどかかるものもあります。出願の内容は数か月で公表されますが、審査の間に、生産現場では登録後に早く普及させるため、産地での試験栽培や苗の増殖が始まっています。

これまで、この出願中の期間(仮保護の期間)には、育成者ができることは限られていました。無断で利用した相手に対しては、登録されたあとで「補償金」を請求することしかできず、利用そのものを止めることはできなかったのです。資料では、カンキツの「あすき」の例が紹介されています。2017年に日本で出願され、2020年12月に国内で苗木の販売が始まり、2022年に品種登録された品種ですが、国内で苗木が売り出される前の2020年4月の時点で、中国のインターネットサイトに実のなった苗木の写真が載っていたとされています。登録を待つ間に、品種が海外へ出ていってしまう。今回の改正は、この期間の守りを固めるものです。

そこで今回、出願が公表されたあとであれば、品種登録の前でも、その品種の種苗の無断輸出を差し止められるようにしました。収穫物についても、そのまま食べる以外の目的(たとえば増殖に使う目的)での輸出が対象になります。ただし、どの出願品種でも止められるわけではなく、条件があります。

  • 出願者が、海外への持ち出しを制限する届出をしている品種であること
  • 出願者が、品種の内容を書いた書面を示して、相手に警告をしていること
  • その輸出によって、取り返しのつかない損害が出る(または出るおそれがある)こと

この差止めは、12月1日以降に出願が公表される品種だけでなく、12月1日の時点ですでに出願が公表されていて、まだ審査の結論が出ていない品種にも使えると、附則で定められています。いま出願中の品種を手元で試作している方は、その品種も対象に入ると考えておいてください。

あわせて、出願品種をほかの人が業として利用している場合などには、その品種の審査を優先して進められる制度もできました。農林水産省は、優先審査の対象になった場合、審査期間を1年程度縮めることを目指すとしています。早く登録されれば、それだけ早く育成者権で守れるようになる、という考え方です。

ここで、出願中の品種について、もともとあるルールも確かめておきます。出願が公表された品種を、出願者から書面で警告を受けたあとに業として利用した場合、品種が登録されたあとで、本来の許諾料に相当する「補償金」を請求されることがあります。警告を受けていなくても、出願公表された品種だと知っていて業として利用した場合は同じです。出願が取り下げられたり、登録が認められなかったりすれば、この請求はなかったことになります。この仕組みは改正の前からあるもので、今回はそこに、輸出についての「差止め」が加わった、という関係です。

生産者の方に関係するのは、出願中の新品種の苗や種を、試作などで手に入れた場合です。国内で栽培する分には、これまでと扱いは変わりません。ただし、正規に手に入れた苗を自分で増やして使う、増やして人に渡すことは、登録前であっても補償金の対象になりえます。登録前だから自由、というわけではありません。そのうえで12月からは、海外の知人に送る、海外の取引先に渡すといったことが、補償金の請求だけでなく差止めの対象にもなりえます。種苗の袋や送り状に「出願公表」「海外持出禁止」といった表示があるときは、その意味を確かめてから扱ってください。


品種名を付けて苗を売るとき ― 名前による推定と、過料の引き上げ

直売所や自分のネットショップで、育てた苗を売っている生産者の方も多いと思います。今回の改正には、品種の名前を付けて種苗を売る行為に関わる変更が2つ入っています。

ひとつめは、名前による推定です。育成者権の侵害を裁判で争うとき、これまでは育成者の側が「売られていた苗は、本当に自分の登録品種である」ことを証明しなければなりませんでした。現物を手に入れるのが難しかったり、栽培して確かめるのに何年もかかったりして、侵害を見つけても訴えを起こせない例が多かったと、農林水産省の資料は指摘しています。資料に載っている育成者権者へのアンケートでは、侵害やその疑いがあった例のうち、およそ7割で法的な対応がとられていませんでした。

改正後は、登録品種の名前を使って業として種苗を売った(または売ると申し出た)場合、その種苗はその登録品種のものと推定されます。名前を付けて売っている以上、その品種だと推定される、ということです。登録品種の名前を付けた苗を、許諾を受けずに自分で増やして売っていれば、育成者は現物を調べるところから始めなくても訴えを起こせるようになります。

ふたつめは、品種名の使用義務に違反したときの過料の引き上げです。登録品種(権利の切れた、もと登録品種を含みます)の種苗を業として売るときは、登録された名前を使わなければならないという決まりが、もともと種苗法にあります。この違反に対する過料が、10万円以下から20万円以下に引き上げられました。

ここで気をつけたいのは、「登録された名前」と「売り場で通っている名前」が違う品種があることです。先にご紹介したとおり、イチゴの「あまおう」の品種登録の名前は「福岡S6号」で、「あまおう」は商標です。こうした品種の苗を業として売るときは、流通している名前や愛称だけで済ませず、袋や伝票に書かれている登録の名前を使う必要があります。愛称を添えて「福岡S6号(あまおう)」のように書くのが確実です。

【注目ポイント】苗を売るときは「正しい名前で、正しい出どころのものを」
名前による推定ができたことで、品種名の付け方そのものが、侵害かどうかを判断される入り口になります。自分で増やした登録品種の苗を、許諾なく品種名を付けて売るのは、これまで以上にはっきりした侵害として扱われます。売る苗の品種名は、仕入れたときの袋や伝票にある名前のとおりに付け、登録品種を自分で増やして売るときは、許諾の範囲に「販売用の苗の生産」が含まれているかを確かめてください。

反対に、正規に仕入れた登録品種の苗を、そのまま正しい名前で売ることは、これまでどおり問題ありません。育成者の許諾を受けて生産された種苗は、売られた時点で権利の処理が済んでいるからです。直売所で苗を扱う方が、仕入れ先の伝票や袋の表示を取っておくと、いざというときに出どころを示せます。


無断で使ったときの賠償が重くなります

育成者権を侵害したときの損害賠償は、多くの場合「本来払うはずだった許諾料に相当する額」を基準に決められてきました。農林水産省の資料は、この仕組みの問題を率直に書いています。侵害が見つかっても、通常の許諾料を払えば済んでしまうため、はじめから許諾を取るよりも、無断で使って見つかったら払うほうが得になりかねない、という点です。

改正後は、裁判所が許諾料に相当する額を決めるとき、侵害があったことを前提に、育成者がその相手と合意したならいくらになったかを考慮できるようになりました。つまり、侵害した相手には、通常より高い料率を当てはめられるということです。特許などほかの知的財産の法律には、すでに同じ考え方が取り入れられています。

資料には、実際の裁判例も紹介されています。育成者権の侵害が争われた裁判で、通常の許諾料の相場が売上の3%とされるところ、売上の5%を損害額と認めた例です。今回の改正は、こうした考え方を法律に書き込んだものと言えます。

さらに、侵害した側が大量に売っていて、その数量が育成者自身の販売能力を超える場合でも、超えた分について許諾料に相当する額を足して請求できるよう、計算のしかたが改められました。これまでは育成者の販売能力の範囲までしか損害が認められず、大規模な無断増殖ほど「得をする」構図が残っていたためです。

生産者の方に置きかえると、「許諾の手続きはあとで考えればいい」は通りにくくなったということです。登録品種を自家増殖する場合や、苗を増やして売る場合は、使い始める前に許諾の条件を確かめておくのが、結局いちばん負担の少ないやり方になります。


苗木のリース・輸出目的の保管・逆輸入 ― 果樹や海外取引に関わる3点

残りの改正点は、果樹の苗木や、海外との取引に関わるものです。直接関係する方は限られますが、今後の品種の流通のしかたが変わっていく兆しでもあるので、簡単にご紹介します。

苗の
リース
「売る」でなく「貸す」苗にも権利が及ぶ

苗を売った場合、その苗には育成者権が及ばなくなり(権利の「消尽」)、買った人がさらに転売することは原則として自由です。一方、育成者が苗の持ち主のまま貸し出す(リース)形なら、苗に権利が及び続け、転売や流出を管理しやすくなります。改正で、権利が及ぶ行為に「貸し渡し」が明記されました。海外では、苗木をリースで供給して品種を厳しく管理している例があり、日本でもブランド果樹の苗木がリース方式で供給される場面が増えていく可能性があります。リース苗は、契約で決められた範囲の外に譲ったり増やしたりできません。

輸出目的
の保管
持ち出す前の「倉庫に置いておく」段階から止められる

前回の改正で、海外持ち出しの制限を届け出た登録品種は、いったん正規に売られた種苗でも輸出には権利が及ぶようになりました。ただ、実際に輸出されるまでの保管には権利が及ばず、港を出て初めて違反になる、という隙間が残っていました。今回、輸出するつもりで保管する段階にも権利が及ぶようになりました。国内で栽培する方には直接関係しませんが、輸出を代行する業者に苗を渡す、海外向けの荷物にまとめておくといった行為は、それ自体が対象になりえます。

逆輸入
海外で正規に売られたものでも、日本に持ち込めば権利が及ぶ

日本の育成者が、「日本には輸出しない」という条件で海外の生産者に品種の利用を認めていても、そこで作られた種苗や収穫物が日本に戻ってくる例がありました。改正で、権利が消尽する(権利が及ばなくなる)のは日本国内で売られた場合だけだと明確にしました。海外の通販サイトなどで、日本の登録品種の種苗を買って持ち込むことは、海外で正規に売られていたものであっても、育成者の許諾なしにはできません。

このほか、育成者権の侵害をめぐる裁判で、裁判所が広く一般から意見を募れる制度も設けられました。特許の裁判にすでにある仕組みにならい、紛争の解決に必要な意見を、当事者以外からも集められるようにするものです。

法律の改正とは別に、農林水産省は、優良な品種の国内での管理と海外へのライセンスを専門に担う「育成者権管理機関」を認定し、2026年7月17日から事業が始まっています。海外での無断栽培を抑えながら、日本からの輸出とぶつからない形で海外の生産者に品種の利用を認め、その許諾料を次の品種開発に回す、という考え方です。苗木のリースも、こうした管理の手段のひとつとして位置づけられています。

リース・輸出目的の保管・逆輸入の3つに共通しているのは、「種苗がどこから来て、どこへ行くのか」の管理を厳しくする方向だということです。種苗を国内の正規の流通で買い、国内で栽培して出荷する限り、どれも直接の影響はありません。影響が出るのは、苗を貸し借りする場面、海外とやりとりする場面に限られます。


ほかの地域の品種を取り寄せるとき ― 「栽培地域の指定」を確かめる

今回の改正点ではありませんが、品種を地域の外から取り寄せて作る生産者の方に、ぜひ確かめていただきたいルールがあります。前回の改正で2021年4月に始まった、国内の栽培地域の指定です。

品種登録を出願する人は、その品種の産地を作ろうとする地域を「指定地域」として届け出ることができます。届け出が公示された登録品種では、指定地域以外で、その種苗を使って収穫物を生産することに育成者権が及びます。つまり、種苗を正規に買ったとしても、指定された地域の外で栽培して収穫物を作ることは、育成者の許諾がなければできません。都道府県が育成して、地域のブランドとして育てている品種などで使われている仕組みです。

このルールで大事なのは、「正規の店で買えたから、どこで作ってもよい」とはならない点です。インターネットの通販が当たり前になり、遠くの産地の種苗も手に入りやすくなりました。地元では手に入らない品種を、条件で探して取り寄せること自体は、品種選びの幅を広げるよい方法です。ただ、その品種に地域の指定がついていれば、自分の畑がその地域に入っているかを先に確かめる必要があります。

確かめ方は難しくありません。栽培地域が指定された登録品種の種苗には、袋や包装に、制限がついていることとその内容を表示する義務があります。広告や店頭の展示にも同じ表示が必要です。購入するときに表示を確かめ、分からなければ流通品種データベースで品種の利用条件を調べるか、販売店に問い合わせてください。


同じ日に成立した、もうひとつの法律 ― 「重要品種」の育成と種苗生産の振興

改正種苗法と同じ2026年7月17日に、「重要品種の育成及びその種苗の生産の振興に関する法律」も成立し、同じ7月24日に公布されました。種苗法が品種を「守る」法律だとすれば、こちらは品種を「育てて広める」ための法律です。施行は、公布から6か月以内に政令で定める日とされています。

この法律でいう「重要品種」は、省力化や多収化につながる性質、高温などの影響をやわらげる性質など、農業をめぐる変化に対応する性質を持ち、広い地域に普及できる登録品種のことです。こうした品種を開発する事業や、その種苗を効率よく生産する事業について、国の認定を受けると、出願料の軽減や、種苗生産のための手続きの特例などの支援を受けられる仕組みが設けられました。

生産者の方にとって目を引くのは、この法律で育成された品種の権利者に、種苗が広い地域に普及するのを妨げないよう努めることが求められている点です。暑さに強い品種、手間のかからない品種の開発と種苗の供給を、国が後押しする方向がはっきりしたと言えます。種苗法の改正で権利を長く守り、こちらの法律で開発と普及を進める。2つの法律は、組み合わせて読むものです。


家庭菜園の方へ ― 楽しみ方は変わりません

このブログを読んでくださっている家庭菜園の方にも、ひとこと添えておきます。2026年の改正で、家庭菜園の楽しみ方は何も変わりません。

農林水産省が家庭菜園向けに出しているリーフレットでは、登録品種は「ご自身で消費する菜園、花壇などでは自由に使えます」とされています。買ってきた種や苗を育てて、収穫して食べる。自分の畑で種を採って、翌年また自分の畑にまく。どちらも自由です。

守っていただきたいのは、前回の改正のときと同じ2点です。ひとつは、登録品種を増やした種や苗、そこから採れたものを、他人に譲らないこと。有償か無償かは問いません。売る場合はもちろん、善意のおすそ分けのように無料で分ける場合も同じです。イチゴのランナーやサツマイモのつる、花の挿し芽など、増やしやすい品目ほど、増えた苗をおすそ分けしたくなる場面が多いので気をつけてください。もうひとつは、海外持ち出しが制限された品種を国外に持ち出さないこと。おみやげや海外の知人への郵送も対象です。

今回の改正で「逆輸入」の扱いが明確になったことも、頭の片隅に置いておいてください。海外の通販サイトで、日本の品種名が付いた種苗が安く売られていることがあります。農林水産省の調査で、日本の品種と同じ名前やそれを思わせる名前の種苗が海外のサイトで見つかったのは、先にご紹介したとおりです。正体の分からない種苗を買わないことが、品種を守ることにも、ご自分の畑を守ることにもつながります。


よくいただく疑問

改正の報道のあと、店頭やお電話でいただいた質問のうち、多いものをまとめました。

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種を採ること自体が、法律で禁止されたのですか?

いいえ。2026年の改正に、自家増殖や種採りのルールを変える規定はありません。許諾が要るのは、登録品種を業として自家増殖する場合だけで、これは2022年から続いているルールです。一般品種は、これまでどおり自由に自家増殖できます。

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いま使っている品種が登録品種かどうか、どこで分かりますか?

登録品種の種苗には、袋や広告に「登録品種」の文字、「品種登録」の文字と登録番号、PVPマークのいずれかの表示が義務づけられています。袋が手元にない場合は、流通品種データベースや農林水産省の品種登録データベースで調べられます。権利がいつまでかも、データベースの登録日から35年(永年性の植物は40年)で数え直してください。

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F1(一代交配種)の種は関係ありますか?

F1でも、品種登録されているものは登録品種として扱われます。登録品種かどうかは、F1か固定種かではなく、袋の表示で判断してください。なお、F1は採った種をまいても親と同じ性質がそろって出ないため、もともと自家採種には向きません。F1と固定種の違いは、7月の当店の記事「F1と固定種・在来種の違い」でまとめています。

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固定種や在来種なら、自由に種を採ってよいのですか?

在来種は、品種登録されていないので一般品種です。自由に種を採れます。一方、固定種は「登録されていない」という意味ではありません。新しく育成された固定種が品種登録されていれば、登録品種として扱われます。F1と同じく、固定種かどうかではなく、袋の表示で判断してください。

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買った苗を植えて、収穫物を出荷するのも制限されますか?

いいえ。正規に買った種苗で栽培し、収穫物を売るのは、登録品種でも自由です。育成者の許諾を受けて生産・販売された種苗は、売られた時点で権利の処理が済んでいます。今回の改正も、この点は変えていません。

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許諾を取っていない登録品種を、いま自家増殖しています。どうすればいいですか?

この状態は、改正の前から許諾が必要な状態です。次の作の種苗にする前に、育成者権者に許諾の条件を問い合わせてください。許諾の方法は、民間の種苗メーカー、農研機構、都道府県など育成者ごとに違い、無償のもの、有償のもの、JAや生産者団体を通してまとめて申請するものなどがあります。たとえば農研機構の品種では、稲・麦・大豆などは申請不要(守る事項の確認だけ)、サツマイモ・イチゴ・ジャガイモは無償の申請、果樹は有償の申請と、品目によって扱いが分かれています。


12月の施行までに、生産者が確かめておきたいこと

ここまでの内容を、生産者の方の作業に置きかえて整理します。どれも、手元の資料と品種の表示を見直せば済むことです。

1つめは、自家増殖している品種の一覧を作ることです。先にご紹介した品目(苗・イモ・株で増やすもの、接ぎ木の果樹や花木、種を採る固定した品種)を中心に、自分で増やして次の作に使っている品種を書き出し、それぞれが登録品種か一般品種かを確かめます。登録品種であれば、許諾を取っているか、許諾の範囲(自分の畑での利用だけか、苗の販売まで含むか)を確認しておきます。

2つめは、権利の満了時期を数え直すことです。登録品種については、登録の日から35年(永年性の植物は40年)で満了の年を計算し直します。これまでの計算では近いうちに切れるはずだった品種も、10年延びています。品種の切り替えや、増殖の計画を立てている場合は、この数字を前提に見直してください。

3つめは、苗を売るときの品種名を確かめることです。直売所やネットで苗を売っている方は、付けている品種名が、仕入れたときの袋や伝票の名前と一致しているかを見直します。自分で増やした登録品種の苗を売っている場合は、許諾の範囲に販売用の生産が含まれていなければ、その苗は売れません。

4つめは、地域の外から取り寄せている品種の条件を確かめることです。産地の指定がついた登録品種でないか、袋の表示か流通品種データベースで確認します。これは前回の改正からあるルールですが、取り寄せる品種が増えるほど、見落としやすくなります。

5つめは、海外とのやりとりを見直すことです。海外の知人や取引先に種苗を送る予定、海外のサイトで種苗を買う予定がある場合は、その品種が登録品種かどうか、海外持ち出しの制限があるかどうかを先に確かめます。12月からは、出願中の品種や、輸出に向けた保管の段階にも制限がかかります。

前回の改正のときと比べると、確かめることは多くありません。多くの方にとっては、「自家増殖のルールは変わっていない」「権利の期間が10年延びた」の2点を押さえておけば足りるはずです。


まとめ

2026年の改正種苗法で、押さえておきたい5つのこと
  1. 自家増殖のルールは変わっていない。登録品種を業として自家増殖するには許諾が要る、という2022年からのルールがそのまま続く。一般品種と家庭菜園は、これまでどおり自由。
  2. 育成者権は35年(果樹など40年)に延びた。2026年7月24日の公布の日から施行済みで、いま続いている権利にも及ぶ。すでに切れていた品種は元に戻らない。
  3. 出願中の品種も、無断輸出を止められるようになる。2026年12月1日から。出願公表後、海外持ち出しの制限を届け出た品種が対象。
  4. 品種名を付けて苗を売るときは、名前と出どころを正しく。登録品種の名前で売った種苗はその品種と推定される。名前の使用義務違反の過料は20万円以下に。
  5. 無断利用の賠償は、通常の許諾料より重く認定されうる。許諾は使い始める前に。正規に買った種苗で栽培・出荷する通常の営農は、何も変わらない。

2026年の改正は、見出しだけを追うと「また規制が強まった」と受け取られがちです。けれども中身は、品種を開発した人が、無断で使われたときに手を打ちやすくするための改正で、正規の種苗を使っている生産者の方の作業はほとんど変わりません。新しい品種が開発され続けることは、気候の変化に合わせて品種を選び直していく生産者にとっても、長い目で見れば大切なことです。

この記事は、5月の当店の記事「登録品種とは」の続編にあたります。登録品種と一般品種の違い、表示の見分け方、自家増殖の許諾の考え方は、そちらでくわしくご説明しています。

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